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〜綴〜
どさくさに紛れて、食ってやろうか…
なんて、キラキラ光る朝陽が眩しくて俺はヴァンパイアのように目を細めて、腕の中の井波を抱きしめた。
柔らかな髪に唇を寄せて、ずっと月夜なら良いとさえ思ったけど、現実は当然の如く無情だ。
「ぅゔ…」
しっとり汗ばんだ井波はまるで情事の後のようで、俺は甘く乾いた溜息を漏らした。
どうやら寝苦しいのか若干うなされている。
額に張り付いた髪を撫で上げてやると、垂れた目がゆっくりと開いた。
「おはよう」
ニッコリ微笑むと、井波はクルンと寝返りを打ち背中を向けた。
「井波?」
「おはよう…」
どうやら恥ずかしがっているようだ。
何となく揶揄いたい気持ちもあったけど、怒らせて二度と一緒に寝て貰えなくなるのは嫌だったから我慢した。
「朝ごはん買ってくるよ。泊めてくれたお礼」
「…甘いパン」
ゴソッと上半身を捻りリクエストしてくる。
「はいはい」
井波を残して、俺はコンビニへ向かった。
甘いパンとコーヒーを選んで、胸の奥が熱くなる。これはこれで悪くない。何となく恋人っぽい朝ではあるし、朝食を買ったからにはまた井波の側に戻れるんだから。
そんな事を考えながら、東京の空を見上げた。
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