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16 〜宝〜 如月が買ってきたパンは、クロワッサン生地の中にホイップクリームとイチゴが挟まったメルヘンチックなモノだった。 一緒に買ってきてくれたコーヒーの苦味がちょうどいい。 パンに齧り付いたら、ポロポロと生地が落ちるもんだから、それを気にしていたら、如月の指が俺の唇を掬うように撫でた。 「何?」 「クリーム」 如月は指先を立てて掬い取ったクリームを見せる。 俺はティッシュを取ろうと手を伸ばすと、視界の端で指先をパクッと口にしたのが見えた。 ゆっくり首だけ捻る。 「食べた?」 チュッと甘い音をさせて、如月は口から指を引き抜く。 「うん…あっまい」 悪びれる事のない如月を見て、ティッシュに伸ばしていた手を床について項垂れた。 「如月はさぁ…」 「俺、行くわ。殺虫剤買いに行かなきゃ」 「ぇ…あ、うん…」 「じゃ、ありがとう」 俺は体勢を立て直し「いえいえ」と頭を下げた。 呆気なく出て行った如月に呆然とする。 そのままフローリングに横たわったら、パラパラ落ちたクロワッサン生地が床に散乱していた。 「彼女にも…あんな風にすんのかな」 横向きになった視界にシングルの布団が一つ。 大きな腕に抱かれて眠った夜が、俺の中で確実に爪痕を残していた。
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