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〜綴〜
きっともう、何をしていても可愛いだとか、愛おしいだとかいう感情が泉のように湧くんだろう。
口に広がった井波の唇から掠めとった甘いクリームの味が、ジワジワと涙を呼んだ。
こんなにも好きだなんて、酷い現実だ。
如月はさぁ…と井波が何か言い掛けたところで、分かりやすく話を逸らした。
俺の行動が過ぎたことは間違いなかったからだ。自分でだって分かってる。普通、この蒸すような暑さの中、男が男を抱いて寝たりしない。甘えが許されるなら、大人しく抱かれて眠っていた井波も悪いと言い切りたい。
バレてはいけないよ
見つかってはいけないよ
そう誰かが囁いた気がした。
側に居たいなら、この狂った感情は押し殺せ。
俺は両頬をパンと叩いて苦笑いした。
太陽は真上。
ジリジリとさす日差しに片目を瞑りながら、殺虫剤を含めた日用品の買い出しに来ていた。
「あっつい…」
元々代謝が良すぎて汗かきだ。
家に着いた頃にはしっとりと背中が汗ばんでいた。
「重い…水系のモノってヤバいな」
食器洗剤や洗濯洗剤を袋から取り出しながら独り言を呟いた時だった。
ピンポンとチャイムが鳴る。
ここを知っている人間なんて限られたもんだから、俺はてっきり井波だと思い、勢いよく玄関を開いた。
体に軽い衝撃を受けて、俺は尻もちをつく。
「イエーイっ!つづちゃんっ!来ちゃったっ!」
抱きついて来た小柄な男がそう言いながら顔を上げた。
「凪野…」
ビックリして、思わず普通に名前を呼んでしまう。
玄関先にはもう一人、逆光だがすぐに誰だか分かった。
「来ちゃったって…瞬は本当つづちゃん好きだよね」
「舟木…おまえらどうやって」
凪野に抱きつかれたまま呆然と呟く俺。
すると凪野は立ち上がり、尻もちをついた俺に手を差し出して言った。
「実はさ、ワンマンのフライヤー写真撮ってくれた秋田さんて居たでしょ!こっちで知り合いの個展の手伝いなんだって!でね!一緒に車で連れて来てもらったんだよ!」
「秋…田…あぁ…」
あのむちゃくちゃ写真撮られた人だ。
凪野の手をとり、俺も立ち上がる。
「でね!つづちゃん、今日泊めてね!」
「泊め…えっ?!今日?」
改めて向かい合った二人はニッと悪い顔で笑った。
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