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19 〜綴〜 期待に満ちた瞳で凪野は俺の言葉を待っている。 肩を竦めて呟いた。 「婦人靴売り場で…まぁ、その…靴を…」 凪野が顔を顰める。 「つづちゃん…それ本当に大丈夫なやつ?」 凪野の口ぶりは本気の心配のようだ。俺が完全なる人見知りに近いのを良く見抜いているから当然といえば当然かもしれない。 「大丈夫だよ…歌舞伎町が近いからな。夜のお姉様方が沢山来るだろうし、如月の事だから、すぐ噂は広まる気がする」 井波がギターを壁に立て掛けて立ち上がりながら話を続ける。 「辛かったらやめろよ」 フローリングに座っていた俺は、立ち上がった井波を見上げて、ニヤついてしまいそうな表情筋を引き締めた。 井波が俺を心配している。気にかけて貰ってる。 幸せだった。 ただ、それを態度に出すほど子供ではない。 凪野と舟木が居てくれて良かった。 垂れた瞳に俺が映ったのは一瞬。井波は部屋の隅に置かれた買い物袋の前にしゃがみこんで中をゴソゴソ漁る。 「何してんだよ」 問いかけると、井波は袋に手をかけたまま振り返った。 「先住民退治」 相変わらずの無表情の手には殺虫剤が凛々しく握られている。 俺は昨夜のギラギラ光る焦茶色の奴を思い出して天を仰いだ。
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