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〜宝〜
ボロボロの似合わないソファーに座っていた高級な家の猫みたいな如月が帰ってしまった。
ベッドで胡座をかきながら抱えていたギターを腹の上に乗せて抱きしめ倒れ込む。
固い感触は当たり前だが、人間のそれではない。
もう一ヶ月…LIVEが出来ていない。
如月は卒業してから、曲作りの様子を伺いがてらうちに来る。特に何をするでもなく、静かに佇み、タバコを何本か吸って、たまにバーボンの瓶を片手にフラッと。
そして、何を言うでもなく今日みたいに帰っていく。
俺はその後の空間が、自分の部屋なのに息苦しい。
如月が側にいると、ギターで遊びながら、たまに眠ってしまいそうになる。
それぐらい、如月は心地良い何かを持っていた。
喋ってもフワフワしてるしな…。あれで、ヤンキーとかよくやってたよ…。
「はぁ…バイトかぁ…マジで働かなきゃなぁ…」
呟いて凪野と舟木を呼びだした。
「えぇ〜っ!つづちゃん帰ったの?!居る時に呼んでよっ!井波くんだけずるいよっ!」
凪野が体育座りで膝を胸に引き寄せながらボロボロのソファーにゴロンと倒れ込む。
「何言ってんだよ。メンバーなんだからすぐ会えるだろ」
俺の投げやりな言葉に、プッと頰を膨らませ寝転んだままの姿勢で睨んでくる。
「それがここ最近全く会えてないから言ってんじゃん!」
舟木が「まぁまぁ」と小さく呟く。
俺はプイと顔を背け言った。
「バイトしなきゃ…いつまでもCosmosだけの出演じゃ話にならないし」
「…そうだね…ツアーとかも組んでみたいし」
「ツアー?」
「夏休みあたりどうかな?」
舟木の言葉に、何となく世界が開いたような気になる。
「じゃあバンがいるじゃん!一台は鮫島さんのが有るけど機材だけで人が乗れなくなっちゃうもんね」
ガバッと起き上がった凪野が言うと、舟木は頷いた。
「…バン…ツアー……よしっ!!履歴書買ってくるっ!!」
「えっ?!ちょっ!井波くんっ!!」
凪野の声を背に、上着を羽織りながら階段を駆け降りた。
コンビニで履歴書買って、帰って殴り書いて、近所の一番時給が高かった寿司屋に出した。
グズグズしてる時間なんてなかったんだ。
卒業してからの時間は殆ど曲作りに明け暮れていたから、別に何かをサボっていたつもりはないけど、凪野や舟木はまだ学校に縛られてるし、鮫島さんはとりあえずは本業を休めない。
俺と如月が何とか金を工面して、早いとこ出るとこに出ないと…。
暫くしたら、寿司屋から連絡が来た。
どうやら俺は
明日から寿司屋さんだ。
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