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20 〜宝〜 都会の夜はベタベタと蒸し暑く、寝苦しかった。 「昨日は如月が居たのに、割と良く寝たよな…」 ゴロゴロと寝返りを打っては昨日の夜を思い出す。 如月は俺を甘やかすのが上手い。甘えん坊だと言って、俺から何か求めるのを簡単に許す。 体の線が細い俺は、如月の腕にすっぽり包まれて、首筋に埋めた鼻先からは彼の匂いが甘く誘惑をしかけるようだった。 如月の家は今頃まだ賑やかかも知れないな。 凪野と舟木ははしゃいでたし、俺にまで帰るなと言って酒を飲まそうと必死だった。 ザルの如月と呑んだら、凪野も舟木も明日はグロッキーに違いない。 何度も寝返りを打っていたら、そのうち眠ってしまった。 浅い眠りなのか、フワフワと記憶には薄い夢を見た。 如月の声があまりに透明で、綺麗で、俺はその周りをはしゃぐようにギターをかき鳴らしながらぐるぐる回る。 舟木の一定のリズムを頼りに俺は遊び惚けて、凪野と鮫島さんがちょっと嫌な顔をする。 俺はそんな事お構いなしに客席に向かって高々とピースサイン。 最高だろ?おまえら!ここは天国っ!きっとサタンも邪魔できない! 如月を振り返ると、黒い霧が彼を包んだ。 ゾクリと皮膚が粟立つ。 「如月っ!!……ぅ…わ…何これ…夢?」 漫画みたいに手を精一杯伸ばして飛び起きた。 如月が消えたような夢 如月が吸い込まれたような夢 如月が… 額から流れる汗を乱暴に拭って、枕に向かってパタリと倒れ込んだ。 「…如月が綺麗過ぎるから…悪魔に誘拐されたかと思ったわ」 一人なのをいい事に、バカみたいな呟きが漏れた。 天井には安っぽい照明器具が垂れ下がっていて、小さく灯った豆電球のあかりがやけに目に沁みた。 如月と居られる幸せが、時に深い恐怖を感じる事がある。 アイツが側に居るのは最早当然で、自然で、当たり前の日常なのに、どうしてだろう。 如月の目を見ると、無性に切なく、言葉にならない焦燥感みたいなもんが湧き上がる事がある。 如月は神秘的過ぎるんだよ…
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