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21 〜宝〜 随分と寝た気もするし、そうじゃない気もする朝。 ピンポンと薄い玄関扉からチャイム音が響く。 頭を掻きながらヨタヨタと玄関を開けに歩く。 「よ!寝坊助」 立っていたのは如月だった。 朝日が背中から後光のように降り注ぎ、天使かよ、と心で呟いたら、昨夜見た妙な夢を思い出して身震いした。 「いっ…井波?ど、どうした?」 如月の驚いた声がする。 その後ろから、ひょっこり顔を出した凪野が言った。 「おぉ〜、お熱いですな!」 「なんか言い方がいかがわしいな」 舟木の声もする。 俺はようやくそこで自分が如月に抱きついている事に気付いて顔を上げた。 綺麗な目と数秒見つめ合い、極力普通を装いながら体を離した。 「ね、寝ぼけてた、悪りぃ」 如月はビックリした顔から一転、満面の笑みで「なぁんだ、寝ぼけてたの?」と言う。 凪野が調子良く「女と間違えたなぁ〜」なんて笑いながら茶化すと、如月がギラリと目の色を変えて俺の両肩を掴み体を揺らしてきた。 「まっ間違えたのっ?!」 こんな現在進行形でギターバカに女がいるはずもない。だけど、男のプライド的にはそれを口にするのは憚られた。口を噤む俺をジッと見つめる如月。まるで捨てられた子犬じゃないか。 「あぁ〜っもうっ!間違えるわけないだろっ!女なんか居ないんだからっ!」 如月からの視線に根負けして身体をのけ反らせながら吐き捨てた。 「…そ、そうだよな。居ないよな…」 如月の妙に安心したような声音と表情にカチンときた。 「何だよ、その居なくて当たり前だよなみたいな」 「いっいやいや!違うよ!」 如月が慌てると、凪野が如月を後ろからギュッと抱きしめながら顔をこちらに向けた。 「井波くんはさぁ、音楽バカの前にほんとのバカだったりして」 そう言って舌を出した。 「おっまえ!!何朝から喧嘩売ってんだよっ!買うぞっ!」 如月の後ろに隠れた凪野を捕まえようとすると、舟木が「まぁまぁ」と同級生を庇う。 如月も俺の乱れた髪に手をかけて優しく撫であげると苦笑いして言った。 「ごめんってば、俺の言い方が悪かったよ」 如月の困った顔を見たら、一瞬にしてそんなつもりがなかった事は分かる。だから俺は、凪野に向かって呟いた。 「ばあちゃんに凪野は悪い子だって言ってやる」 すると、ばあちゃんに可愛がられていた凪野は半泣き顔。 「井波くんの意地悪ぅ〜」 「フン」 俺がそっぽを向くと、如月と舟木がクスクスと笑いあった。
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