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3 〜綴〜 井波が寿司屋で働き始めた。 夜中にかかってきた電話で、分かるような分からないような話を、捲し立てるように話していた。 ツアーだ!とか、バンがいる!とか、確かそんな感じで、とにかく明日から寿司屋なんだと家に居なくなる事を告げられた。 顔を見れるだけで安心していた部分が俺の中から削ぎ落とされる。 電話を切る前に井波が言った。 「ずっと一緒にバンドの事だけ考えたい。金、作ろうな」 …惚れ直すからやめてくれ。無自覚野郎め…。 俺は手のひらで顔を覆いながら返した。 「うん。俺も探すよ、バイト」 井波は満足そうに「うん、じゃ」と浮かれた調子だった。 ずっと一緒に…のフレーズばかりリフレインする。 バンドの事だけ考えたい、の部分は、俺のやる気に影響するから伏せておこう。 翌日、近くの工場に面接に行ったら、即日採用で流れ作業についた。 人目につかず同じ作業の繰り返しではあったけど、未来の為と思えば大した苦痛ではなかった。 時折、目の前を通る凄く老いた社員のおじいさんを見ると、ここから抜け出せなくなるのは怖いなと感じたりはした。 井波や、凪野、舟木、鮫島さんが居る。 怖がる必要は…きっとない。
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