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〜綴〜
工場勤にも慣れ始めた頃、昼休憩には早い時間に事務所に呼ばれてた。
何かしくったか?
心で呟きながら、事務所に入った。
「失礼しまぁーす。」
「あ!綴くん!今ね、お母さんから連絡あって!お父さんがっ…」
「…あぁ…はい…えっと…」
多分、アイツが死んだのだと、すぐ分かった。
最近母さんは病院通いで疲れていたし、もう長くはないと言っていたからだ。
因果応報…報いだよ。まだ50代だろ…。
本当、最後まで自分勝手な男だ。
最後まで…。
「綴くんっ!大丈夫っ?!」
事務員のお姉さんに肩を揺さぶられ我に返った。
「あっ…俺、まだ仕事が」
「何言ってんの!急いで帰って!」
「あ…はい」
だだっ広い砂利の駐車場にとめてある父さんの乗らなくなった車に乗り込む。
急がないとならないんだろうけど、ハンドルを握ったまま、項垂れてしまう。
少し手が震えていた。
取ったばかりの免許証で初めてこの車に乗った時の事を思い出していた。
車を運転する父親の背中を、後ろから見ていた光景を思い出しながらエンジンをかけたんだ。
「…父さん」
気づいたら、泣いていた。
静かに、静かに頰を流れる涙に、少し驚きながら、腕でソレを拭い去り、唇を噛んでアクセルを踏んだ。
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