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〜宝〜
如月の親父さんが亡くなったと、何故か凪野から知った。田舎だから情報が早いのか、凪野がそういうのに敏感なのか…如月から直接聞いたのか…。
何となく複雑な心境のまま、如月が父親を嫌悪していた事実を知る俺は、何て声をかけるべきか、考えあぐねていた。
直接聞いたわけじゃないから尚更だ。
大丈夫か?が正しいのか?
いや、普通、親が死んだら大丈夫じゃない。
今日が休みで良かった。
こんな調子で寿司とか握ってられない。
俺はソワソワしながら携帯の画面を開いたり閉じたりしていた。
そこに着信が来て、体の線が全部伸びたんじゃないかと思うくらい縦に固まった。
「如月じゃん…はい」
電話に出ると、かけてきた相手は黙っている。
「如月?」
「…会いたい」
澄んだ声が、ほんの少しビブラート。
俺は肩に入っていた力を抜く。
「そういうの好きな女に言えよ」
「…ハハ…そうだけど…会いたい」
俺の心臓は簡単に揺れる。
会いたいのは、多分おまえだけじゃない。
「今日、バイト休み。…家、来なよ」
「うん…行く」
電話はそれ以上何も話さずに切れた。
外はちょっと雨が降り出していて、如月が濡れないか心配になった。
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