53

1/1
前へ
/89ページ
次へ

53

53 〜綴〜 白い肌が紅潮して、可愛く垂れた瞳が縋るように俺を見つめている事に、本人は気づいていないんだろう。 まさかリアラさんと会ってた事が瞬殺でバレちゃうなんて、悪い事は出来たもんじゃないな。 言い訳をしなければという自分と、今更手遅れだろうと嘆く自分が、まるで悪魔と天使の囁きのようにして、頭を支配していた。 肩を掴んだ井波から まさかのキス。 触れただけのキス。 離したくなくてキツく抱き寄せた。 「痛い…」 「ぁ…ごめっ…っ!…んっ」 井波からまたキス。 深く赤い舌が俺の口内で裸になる。 散々絡み合った濃厚なキスが夢のように離れていく。 「井波…どうしよう…好きだよ…どうしたら…」 ジワリと涙腺が緩んだ。 俺達は本気で音楽をしなくちゃならない。 俺達は仲間でなければいけない。 それでも、これは愛なんだ…。 苦しい。 好きで 苦しい。 こんな事をどうやって伝えたらいい? 「俺…重いね」 苦笑いして、形の良い頭を抱きしめ髪を撫でた。 井波は暫く黙っていて、それから小さく呟いた。 「きっと………俺の方が重い」 その言葉は 宝物みたいに輝いて 俺の涙腺を壊した。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加