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〜宝〜
…起きていた。
寝言を言って少ししてから如月が髪を弄ってくるから、目が覚めたんだ。
瞼を開くタイミングを完全に見失っていた。
俺に大好きと言って欲しい…それを聞いただけでも、心臓がバクバクした。なのに、更に悪ふざけみたいにして、如月はバカを言う。
「壮大なセックスってなんだよ」
起き上がり胡座をかいて、一人呟いた。
如月と俺は両思いだし、キスもする。
だけど… 一線を越えたりはしていない。
音楽を真剣にする約束
見失いたくはない"仲間"という意識
ただ、それを越えてくる独占欲と…
混ざり合いたいと願う魂。
如月と
壮大なセックス
…明日も、今日みたいに晴れるかな。
窓から覗いた空は群青色。
深い夜を薄めて、朝を連れてくる。
月はもういない。
如月の言う壮大な世界を眺めながら、俺はエロいセックスを妄想し、苦笑いした。
あぁ…これがおまえの言う壮大なセックスね…
まったく、健全じゃない上に、すこぶる変態っぽくて如月らしい。
結局、少し眠ってすぐに朝が来た。
目覚まし時計かと思うほどの勢いで携帯が鳴る。
「はぃ…」
「あぁーっ!その声はっ!昨日相当飲んだでしょ!」
…凪野だ。
俺は頭を掻きながら布団から起き上がった。
冷蔵庫まで歩き、中からコーヒーを取り出す。
グラスに注いでいる間も、凪野はギャーギャーと騒いでいた。
ゴキュッゴキュッと喉が鳴ると、凪野は更に喚いた。
「ちょっとー!井波くん、何か飲んでる場合じゃないのっ!!鮫島さんの友達がね!もう乗らなくなったバンを格安でNOT-FOUNDに売ってくれるって言うの!ツアーと言えば!バンでしょ!いるっしょ!バンでしょっ!」
俺は耳を押さえながら「はいはい」と呟いた。
「予算は?」
「大丈夫!今までのライブの売り上げ、ちゃんと彩が貯めてるから!」
「さっすが堅実だな、舟木は」
「最初俺が管理するって言ったら、瞬は絶対ダメ!って言うんだもん。俺だって出来るのに!」
「はは、どーせ無くすから!とか言われたんだろ」
「ゲェ〜、何で分かるんだよ」
「だって、今年入ってから財布無くしたの幾つめだよ」
「え〜…それはぁ〜…まぁ、三つ…ってまぁ良いじゃん!それよりNOT-FOUND号!嬉しいね!俺、超楽しみだぁ〜!井波くんは?楽しみっ?」
俺はまた窓の外を見た。
「あぁ…スゲェ…楽しみ」
「ヤッタァー!頑張ろうね!」
「あぁ」
「じゃあ、バンの方、話は進めておくから!今日中には終わらせるよ!じゃあね!」
「はーい」
騒がしい。
凪野はマジで賑やかだ。
そんでもって超…フットワークが軽い。
俺も如月も腰が重くて、その辺りは助かっていた。
アイツ、まだ高校生だよな?学校ちゃんと行っってんだろうな…。
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