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〜綴〜
リアラさんとの事がバレて、なんとなく許して貰った翌日から、たまに井波が俺を軽蔑したような目で見るようになった。
勿論、冗談をはらんでいるんだけど、何でなんだろう?
思い当たる節が全くない…わけじゃないけど。
まさか、あの朝、まだ眠ってた井波に呟いた言葉…起きてたなんて事…ないよなぁ…。
いや、あったら死にたい。死にたいさ。
恥ずかしいもん。
だけど愚かな俺は、それが伝わってしまっていたなら…進展が見込めないだろうか…なんて浅はかな事を考えるわけだ。
若い性が嵐のように身体の中で暴れているんだからそれは全くもって仕方ない。
スタジオ練習にライブにバイト。
忙しい毎日はしばらく続いて、俺たちは、なけなしの金をかき集めファミレスでミーティングを開いていた。
「俺、次の小遣い日まで100円」
凪野が手のひらに乗せた100円玉を眺める。
「そんなのまだマシだろ?俺、部屋にある缶に入った10円玉が何枚かだ」
俺がそう言うと、井波がヒャヒャヒャと笑った。
正直笑い事じゃない。
鮫島さんがタバコに火をつけて、紫煙を吐き出すと話し始めた。
「ライブの本数だけは減らしちゃいけないと思う。今減らしたら、努力が水の泡だ」
俺達はライブを定期的にこなしている為、バイトに出れる時間が確実に削られていった。東京はどんなにボロアパートでも、地元の家賃と比べたら遥かに高い。
ついでにスタジオ代と、鮫島さん経由で購入したNOT-FOUND号の支払いが割り勘でのしかかっていた。ライブチケットは完売出来る事が増えては来たが、バックで貰う金は微々たるものだ。
安いファミレスで行われていたミーティングの最中、凪野の携帯が鳴る。
「はーい、もしもし!サワキタさん?うん、みんな居るよ…うん、うん、え?!えっ?!ホールっ?!はいっ!えーっと、ちょっと待って」
凪野が携帯を机に置いた。
「サワキタさんから。NOT-FOUNDで…ホールライブをしないかって…そこで名前を売っていよいよツアーに出るって」
「ホールって…」
鮫島さんが呟くと、凪野は呆然とした口調で呟いた。
「キャパ…800」
「はっ!!800っ!」
ただでさえ渇いていた全員の喉がゴクリと音をたてた。
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