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58 〜宝〜 インディーズレーベルからCDを出し、そいつがとんとん拍子で一位に輝き、世間はこんなにも簡単なのかと感じてる間に、それとは逆に俺達はどんどん貧乏になっていった。 もう、生活がギリギリだという頃、サワキタさんからホールライブの誘いが入った。 初めはうち一本でかと驚いたけど、あと何バンドか一緒にって話で、ホッとしたのも束の間…。 ホールライブに怖気付いたバンドがいくつか辞退を申し出て、最後には俺達NOT-FOUNDと、主催のサワキタさんのバンドだけになっていた。 如月は「俺達は大丈夫だけど、サワキタさん、本当に平気かな?」って何回も言ってたな。 ホールの赤字はライブハウスなんかの比じゃない。 鮫島さんが言った言葉は、NOT-FOUNDの結束を強めた。 「NOT-FOUNDでホールをするって相当な意味ある事だと思うぜ。これはチャンスだよ」 凪野が「賭けだな」と頷き、舟木は確か…水を飲んでいたっけ。 とにかく、そういうわけで!! 本日俺達は、キャパ800超えのホールステージに立つ! 鮫島さんの言った通り、ライブの数だけは減らしちゃいけない!を守ったおかげか、チケットは前売りで400枚、当日に400枚で完売だった。 ニッチな趣味の如月が書く歌詞がこの空間に響く。それを考えるとゾクゾクした。 客席に座ってステージを眺める俺の背後で気配がする。 目を閉じていても、空気の揺れでわかる。関係者がざわつく。如月に違いない。 如月が歩くだけで、恍惚の表情が群れをなす。 「みんな見てるからな」 ボソリと呟くと、後ろから肩に手がかかる。 「分かってる。井波に迷惑なんてかけないよ」 少し寂しそうに呟いた声。それから、肩にかかった手が腕を撫でるようにして離れた。 そうじゃない。 俺に迷惑がかかるとか…そんなんじゃないんだ。 心でしか返せないまま、俺達は控室に戻った。 鮫島さんの髪を立てるスプレーが視界を白くする。高さにしたら30センチは身長が伸びてる。 全員が目の周りを黒く塗り、デカダンな雰囲気満載になる。 さぁ…俺達がNOT-FOUNDだっ!!!
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