74人が本棚に入れています
本棚に追加
58
58
〜宝〜
インディーズレーベルからCDを出し、そいつがとんとん拍子で一位に輝き、世間はこんなにも簡単なのかと感じてる間に、それとは逆に俺達はどんどん貧乏になっていった。
もう、生活がギリギリだという頃、サワキタさんからホールライブの誘いが入った。
初めはうち一本でかと驚いたけど、あと何バンドか一緒にって話で、ホッとしたのも束の間…。
ホールライブに怖気付いたバンドがいくつか辞退を申し出て、最後には俺達NOT-FOUNDと、主催のサワキタさんのバンドだけになっていた。
如月は「俺達は大丈夫だけど、サワキタさん、本当に平気かな?」って何回も言ってたな。
ホールの赤字はライブハウスなんかの比じゃない。
鮫島さんが言った言葉は、NOT-FOUNDの結束を強めた。
「NOT-FOUNDでホールをするって相当な意味ある事だと思うぜ。これはチャンスだよ」
凪野が「賭けだな」と頷き、舟木は確か…水を飲んでいたっけ。
とにかく、そういうわけで!!
本日俺達は、キャパ800超えのホールステージに立つ!
鮫島さんの言った通り、ライブの数だけは減らしちゃいけない!を守ったおかげか、チケットは前売りで400枚、当日に400枚で完売だった。
ニッチな趣味の如月が書く歌詞がこの空間に響く。それを考えるとゾクゾクした。
客席に座ってステージを眺める俺の背後で気配がする。
目を閉じていても、空気の揺れでわかる。関係者がざわつく。如月に違いない。
如月が歩くだけで、恍惚の表情が群れをなす。
「みんな見てるからな」
ボソリと呟くと、後ろから肩に手がかかる。
「分かってる。井波に迷惑なんてかけないよ」
少し寂しそうに呟いた声。それから、肩にかかった手が腕を撫でるようにして離れた。
そうじゃない。
俺に迷惑がかかるとか…そんなんじゃないんだ。
心でしか返せないまま、俺達は控室に戻った。
鮫島さんの髪を立てるスプレーが視界を白くする。高さにしたら30センチは身長が伸びてる。
全員が目の周りを黒く塗り、デカダンな雰囲気満載になる。
さぁ…俺達がNOT-FOUNDだっ!!!
最初のコメントを投稿しよう!