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〜宝〜
怖いぐらいの女の歓声は、ほとんど如月に集中していると言って良かった。
造形の整い過ぎたボーカリストは、呪いでもかけられてしまうんじゃないかというくらいの視線を浴びて、何本も何本も伸びてくる手が彼に触れようと、もがき、ひしめき合っている。
舟木と左右を入れ替わるようにギターを奏でながら交差する。
反対側に来た俺に歓声をあげてくれる客に、煽るように身体を屈ませ、ギターのネックをブンと後ろに反らせてから、クルクルターンする。
また軽快にステップを踏むように定位置に戻る為、センターを歩いていると、如月に腰を引き寄せられる。
俺の前にペタンと座り込みながら歌う如月に足を開き、ギターのボディーを顔面に近づけ、ソロを奏でる。
如月は神を崇めるようにマイクを両手にして祈るように膝立ちになり、俺を愛おしそうに見つめた。
バレてしまいそうな
そんなギリギリのパフォーマンスが
ギターで隠れた下半身を刺激する。
如月の美し過ぎる顔、声、身体、その全てを、ここにいる大半の人間が欲しいと望んでいた。
背中まで伸びた長い黒髪は、何をしたらあんなにサラサラツヤツヤと輝くのか、無造作にかきあげるたびに切長の鋭い瞳が客席の心を空っぽにするような勢いで気持ちを盗んでいく。
手に取るように分かるよ
みんな如月が欲しくなる
同じ人間だとは思えない美しさを鳥籠にでもしまえないものかと、手を伸ばす。
透明な透き通るような声でさえ、喉をかき切ってその血を飲んでしまおうかと考える。
如月
置いて行かないで
焦燥感
神のように駆け上がるおまえを
俺はギターの音という鎖を作りながら、必死に
必死に捕まえている。
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