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61 〜宝〜 耳がクワンクワンと掠れる耳鳴りで痛い。 アンコールまで貰って、やり切ったステージが背中でまだ名残惜しい。 息があがっていた。身体がライトにあてられて、沢山の汗をかいて冷えていくはずなのに、火照ってただ熱い。 サワキタさんの事務所のスタッフが、はけてきた俺達に渡してくれた白いバスタオルを羽織り、パイプ椅子に座り込んだまま立てなかった。 客の熱気が、自分の足を奪ったように浮き足立ち、フワフワといつまでも落ち着かない。 ほんの少しだけ項垂れていた顔を上げたら、メンバー全員似たような状態で、だんだんおかしく思えてきた。 「クッ…ククク…アヒャヒャヒャッ」 噛み締めていたが、我慢出来ずに大笑いし始めてしまう。 「何なにぃ〜、何がおかしいんだよ〜井波くんっ」 凪野が一番に笑いながら話しかけてくる。額を伝ってフェイスラインを流れる汗を、俺と同じようにマントみたいに羽織ったバスタオルの端で拭いながら。 「いやぁ、家族みてぇじゃん?みぃ〜んなそっくりな体勢でさ、こう、難しい顔して、肩揺らして、手なんか組んじゃって俯いて!」 凪野はキョロっと控室を見渡し、ブハッと吹いた。 ほぼ円陣を組むように置かれたパイプ椅子に足を広げて深く座り、バスタオルを肩から、または頭から被るように羽織り、前傾姿勢で手を組み項垂れていた顔を上げた目がそれぞれにぶつかった。 そして、馬鹿みたいにみんなで笑いあった。 「何だい何だい?随分と楽しそうじゃないか」 控室に入ってきたのは、サワキタさんだった。嬉しそうにニヤニヤしている。 そして、その後ろに、スーツを着た知らない男が立っていた。
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