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62 〜綴〜 サワキタさんが控室に現れて、俺達は見知った顔に安堵する。 だけど、その後ろに見知らぬ大人を確認すると、五人は全員口をつぐみ、ピタリと笑わなくなった。 「良かったよ、最高のライブだった」 サワキタさんはそんな俺達を無視してニコニコ話を続ける。 サワキタさんの後ろに立っていた男が「はぁ〜…こりゃスターだな」と俺を見て感心するように呟いた。 サワキタさんも嬉しそうに振り返り「そうだろ?」と頷く。 男はサワキタさんの隣に立ち、俺に向かって名刺を差し出した。 俺は大股に開いた足を正す事なく、頭から被ったバスタオルを下ろす事もせず、目だけで掬うように彼を見上げ名刺を受け取った。凪野が覗き込んでくるなり、ガタンと椅子からよろめく。 「つづちゃんっ…び、ビクトリアレコードって」 「ビクトリアッ?!」 鮫島さんが口をあんぐり開けたままだ。 井波は相変わらず無表情で、アシンメトリーの前髪をユラっと一度揺らしただけで動かない。 「いやぁ…本当に良い男だね…日本で見ないよ、このレベルは」 名刺に書かれた田中という名前をジッと眺めて黙っていた。すると、井波が静かに口を開いた。 「…如月はあげないよ」 俺はドキッとして、井波に視線をやった。 井波はそんな俺の視線なんてお構いなしに続けた。 「おじさんは解体する人?それとも俺達ごと買う人?…あぁ…あとさ、如月の顔面目当てなら、俺達はそこに興味がないから。」 田中氏はサワキタさんに向けて首を捻り、肩をすくめた。 そしてこっちに向き直ると、井波に向かってまた名刺を手渡した。 「ビクトリアミュージックの田中です。…解体屋じゃありません。NOT-FOUNDが欲しい。そう思って、ここに来ました」 田中氏は頭を下げる。 俺達みたいなクソガキに、大手企業の社員が頭を下げる事に、動揺した。大手企業とかいう以前に、音楽でプロを目指すならビクトリアミュージックから声がかかったなんて、震えないはずもないところだからだ。 みんなが一斉に席を立ち、頭を上げて下さいと手を伸ばす。 それを見て、サワキタさんはケラケラ笑いながら言った。 「なぁ〜、言っただろ?こんなナリをしちゃいるけど、腰の低い礼儀正しい奴らだって。」 黒ずくめの衣装に派手に立てた髪、メイクでゴスを表現した見た目を思えば、誰もが怖そうだと思うだろう。俺達はサワキタさんに向かって次々と文句を垂れた。 「こんなナリとはなにさっ」 「そーだよ、俺達は最初から真面目だよなぁ」 サワキタさんは目尻の笑い涙を拭いながら、「すまんすまん」と謝った。 そんな中、井波だけがジッと田中氏を見つめている。 信用できる人間かどうかをそっと静かに、推し量るように。
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