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65 〜宝〜 「さぁ!準備は良いなっ!」 「街から街へっ!」 「いざっ!」 「しゅっぱーっっつ! サワキタさんが用意したツアースケジュールを元に、小さなライブハウスを点々と回る。 ボロいNOT-FOUND号に乗って、いよいよ出発だ。 季節は春になろうとしていた。 東京へ出てから、時間の流れはあまりに早い。 ホールライブを大成功させた後、大手レコード会社との契約のお誘いがあり、俺たちはデビューする事が約束された。そして、今からインディーズ事務所最初で最後のライブハウスツアーが始まる。 街から街へ、知らない場所で、知らない人に俺たちの音楽を届ける。反応が怖くもあり、楽しみでもあった。 バンに乗り込んで出発だ。 高速に乗り、パーキングエリアで昼食をとる。 目の前でカレーを食べる如月を上目遣いに眺めると、首を傾げ「どうしたの?」と聞いてくる。 「いや…視線がすげぇ…」 「え?視線?」 「つづちゃんすっごい目立ってるもんね」 「うん、つづは休まる時がねぇなぁ」 凪野が周りを眺め、鮫島さんが苦笑いしながら相槌を打ち、うどんの鉢を傾けて汁を啜る。 舟木は相変わらずボーッと水を飲んでいた。 如月は髪をかきあげながら、ムッとした顔で周りを眺めた。 「きゃっ!」 「見た?!めっちゃイケメンっ!」 聞こえるような、聞こえないようなコソコソ話は、さざなみのように耳を掠める。 俺は肩を竦めながら、パスタをフォークに巻きつけた。 「めぇ〜っちゃイケメェ〜ン」 チラッと如月を見ながら揶揄うように呟くと、スプーンを皿に置いた彼はニィーッと不気味に笑いかけて来た。 ヤバい、ちょっと怒ってるかも。 「井波もイケメンだよ」 ジッと真顔を向けてくるから、慌ててしまう。 「何おまえら褒め合ってんだよ」 鮫島さんが心底呆れるといった感じで呟きながら手にはいなり寿司が握られていた。 「よく食うね」 「バーカ、腹ごしらえしとかなきゃ戦さにならんだろが」 「はぁ…」 この人、何と戦さするつもりなんだか…。 パーキングエリアの食堂はそんな感じで終始カオスだった。
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