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〜宝〜
如月の隣に、ライブハウスの女スタッフが陣取った打ち上げ。
そんな事はこれまでにも沢山あって、俺としてはそれも営業の一環だと理解しているつもりだ。
だけど、ダメな日もあるんだな、なんて痛感する。如月がデレデレしているわけでもないのに、俺ときたらツンケンしていけない。
分かってる。分かってるからこんな自分が嫌だった。
そんな事を考えながら呑んでいたら、あっという間に堕ちていた。
記憶はない。大体毎回ない。
終盤は必ずといって良いほど、寝落ちが定番になっていた。
身体がユラユラ揺れて、何となく足は地面を歩いて…いや、引きずられている感覚があり、場所移動している気がする…程度の記憶はあった。
だけど、身体が横たわって、フカフカとした感触を背中が味わった途端、家に帰ったような安堵に最後の力が抜けた。
酔いからの睡魔…何だか良い夢を見始めていた。
如月が俺の側にいる。
当たり前の事なのに、ただ嬉しい。
首がくすぐったい。如月のサラサラした髪が少し冷たく感じる。何故って…如月が…如月が…。
目を開いたら、俺に跨るように如月が覆い被さっていた。夢なのか?続きを見てる?いや、多分これ現実だ…。
でも不思議と怒りなんかなくて、安心してる自分がいた。あの女と消えてたっておかしくなかったからかもしれない。
俺はギュッと如月の頭を引き寄せた。
「…何してんの?」
俺の問いかけに、如月は少し間を置いて呟いた。
「あぁ…えっと…悪戯?」
「悪戯って」
「…ごめん…なさい」
ゆっくり顔を上げた如月。本当にしょんぼりとした表情を見ていると胸が締め付けられる。多分これが母性本能をくすぐる男というヤツだ。女ならイチコロだろうと思う。
俺はそんな如月を見上げて呟いた。
「…如月…いいよ」
俺の顔の横に手を突いてジッと見下ろしてくる宝石のような瞳がジワジワと大きく見開かれていく。
「何…言ってんだよ」
如月はカタコトみたいにぎこちなく呟く。
「何って…したくないの?」
如月はガクンと項垂れ、ゆっくり俺の上に覆い被さった。はぁ〜っっと深いため息が耳を熱くした。
「何されるか分かってないだろ」
耳元で涙声がする。
「調べた事くらいある」
「だったらダメって分かるじゃん。明日?もう今日か、夜にはライブなんだよ?」
「……じゃあ、どこまでならいいんだよ」
如月は多分手が早い。いっときはリアラさんに限らず、女遊びが激しい時期があった。
それなのに、俺にはこんなに奥手だ。
「どこまでって…誘い方がエグい」
「何?また鼻血出そうってか?」
「出るでしょ!出ちゃうよ!…俺はっ…俺は…」
俺はだんだん可笑しくなってきて、如月の腰に手を回して笑い出してしまう。
「あぁ!もう!結局こんな感じだ!」
如月はいやらしい事を諦めたみたいに声を上げ、俺の隣に大の字で仰向けになった。
俺はヒャヒャヒャと笑いが止まらない。と同時に、悪戯を仕返す事を思いついた。
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