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〜宝〜
欲しいのは如月と、音楽。
初めて如月の身体に触れた。
正直過ぎる若い身体は、快楽をもっと貪るべきだと暴れてしまいそうだった。
裸になって、肌を寄せて、唾液に塗れて、溶け合いたいと願う欲望があった。
だけど、俺達は踏みとどまる。
それは次のライブがあるからじゃない事は分かっていた。お互いに。
お互いに、怖かったんだ。
一線を越える事が、どういうことになるのか。
涙が止まらないでいると、如月は手早く吐き出した性の処理をして、俺を抱きしめ、ベッドに寝転んだ。
「ゆっくり行こう…井波と音楽と…俺はどっちも…どっちも手放さないよ」
額に何度もキスされて、俺はうっとり目を閉じながら、如月にしがみついた。
「…俺から音楽をとったら何も残んない…如月と居る意味も無くなる…俺には音楽が必要で」
「分かってるよ…俺にも、今は井波がくれた歌う事が必要だから。じゃないと…井波の側に居られない」
如月の言葉に、また涙が込み上げた。
喜びなのか、悲しみなのか分からない。
音楽が必要だと分かり合えるのに、それを犠牲にしたら、多分俺達に意味は無くなるんだと、理解するせいだろうか。
「如月…眠い」
「うん…俺も…」
涙が渇かない間に、俺達は抱き合ったまま眠ってしまった。
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