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〜綴〜
ツアーは順調だった。
チケットは回を追うごとに入手困難になっていき、インディーズバンドのツアーなのに、あの超大手レコード会社、ビクトリアミュージックの田中さんは何度も足を運んでくれた。
ツアーが終わったらデビューが待っている。
折り返し地点を過ぎ、やっと今日がラストの移動日だ。
NOT-FOUND号は高速を走っていた。
「鮫島さん、ガソリン大丈夫?」
「いやぁ、どうだろう…正直打ち上げにバカみたいに金回してガソリン代でしか節約出来ねぇって話でな」
前屈みでハンドルを握る鮫島さん。
「節約どころがおかしな事になってんな」
はぁ…とため息混じりに髪を掻き上げた瞬間だった。
ガタンッと車体が揺れ、ガガ…ガタガタ…
「え?」
「何なに?!」
「おいっ!高速だぜ?」
「と、止まった」
俺を筆頭に次々と異常事態に声が出る。
運転席の鮫島さんを見つめると、彼はハンドルを握って突っ伏したままクククと笑った。
「ガ…ガス欠だ」
「はぁ〜〜〜っ?!?!」
四人の絶叫が静かに路肩に止まったNOT-FOUND号の中、こだましたのはいうまでもない。
「凪っ!野っ!もっと!押せっ!よっ!」
「押しっ!てっ!ますっ!!井っ!波くんっ!こそっ!もっと!腰っ!入れっなっよっ!」
「まぁっまぁっ…二人っともっ」
「このっ!ご時世っ!押すっかっ?!」
井波、凪野、舟木、最後の俺の言葉で、運転席の窓から顔を出した鮫島さんは涼しい顔で笑った。
「ガソリン代ケチらなきゃなんねぇのに、レッカー代なんかあるわけねぇだろー」
全員顔を見合わせて、計画性のないバンドを嘆いた。
「あっ!サービスエリア見えて来たぞ!あの下りまで押せばあとは惰力でガソスタ突っ込めるだろ!頑張れー!」
サービスエリアが見えた途端に、一度も車体を押していない鮫島さんが、何故か一番はしゃいだ。
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