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〜宝〜
柔らかな湾曲した道路は、なだらかな下りになっていて、その天辺まで来たNOT-FOUND号は俺達四人の押し出しにより、運転手の鮫島さんだけを乗せて流れるように走り、ガソリンスタンドにちゃっかりインした。
「うわぁ…マジで惰力で入ってったぞ」
「ちょっと気持ちいいね」
俺の言葉に凪野が笑いながらそう言った。舟木はクスクス笑っている。
如月は長く艶々の黒髪を後ろで束ね、相変わらずの汗っかきで、まるで水でも被ったような姿で立ち尽くしていた。
「大丈夫?」
如月に歩みよったら、苦笑いしながら「参ったね」と言った。
両膝に手をついて俺に笑いかけるその姿だけでも、キラキラオーラが眩しい。
フイと視線を逸らすと、手首を掴まれた。凪野と舟木はガソスタに向かってもう歩き出している。
「何だよ」
「プイってするから」
「したか?」
「したよ」
「別に…何でもない」
「…嘘だ」
ジーッと見つめられると、膝の力を奪われるみたいな感覚になる。綺麗な黒い瞳が夕陽を映して目眩がするくらいだ。身体を流れる汗が何故か性的でどうなってるんだとさえ思う。
「…綺麗だなと…思ったら恥ずかしくなったんだよ」
ムスッと呟くと、如月は満足そうに俺の肩を抱いて、言った。
「最後だな…ツアー」
「…うん…すげぇ短く感じる」
「だな」
「今日もリハ間に合わねぇよ」
そう言うと、如月は俺の肩を抱いたままケラケラ笑い出した。
「締まりねぇ〜」
「まぁ、こんなもんだな、酒飲みバンドだし」
「アハハハ」
大きな太陽はオレンジで、ユラユラ空を染めた。
如月の綺麗な顔がクシャッと歪みながら笑う。そこに、空に広がったオレンジが射して眩しい。
「如月…」
「ハハ…何?」
「………好きだ」
如月はポカンと俺を見つめる。
「何バカみたいな顔してんだよ」
ムッと口を結ぶと、如月は眩しいくらいの夕陽の中、俺を引き寄せキスをした。
「…ップハッ!おっまえなぁっ!!どこだと思っ」
「アハハッ!高速道路だろ〜っ!早く行こうぜ」
如月は珍しくはしゃいだ少年のように沈む太陽に向かって走って行った。
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