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〜綴〜
高校を無事に卒業。
進路をミュージシャンなどと無謀にも程がある夢に絞ったおかげで、俺と井波は世間でいうところのフリーターになっていた。
卒業と同時にこの片田舎を出る。それも良かったが、現実はそんなに甘くはなかった。
軍資金ゼロ。
つまり旅立つにも金がないのだ。
モクモクと煙る井波の部屋。
俺はタバコを灰皿に打ちつけながら、ベッドでギターを弾く井波を見つめた。
「なぁ…」
「何?」
「いや…バイトとか…しないとだよな」
「…あぁ〜…うん…まぁ、そうね」
ガシャガシャと弦を鳴らす井波。
聞いているのか、いないのか分からない。
「…帰るわ」
「えっ…そう?」
何だかうわの空な井波に苦笑いを返し、細い階段を降りた。
出口で光が射すのを見ると、眩しくて目を細めてしまう。
卒業してからも、曲作りと称して何だかんだと井波の家に転がり込んでいた。
卒業式の日に離れないと口にしたのは俺の勝手な想いで、こんな風に素っ気ない井波のせいじゃない。
だけど…。
最近LIVEも出来ていない俺達はフラストレーションが溜まっていた。
鮫島さんの本業が忙しくなって、なかなか練習もままならない。
そんな中、井波は焦るでもなくあぁして淡々とギターを弾き、曲を作っては子供のように幸せそうなのだ。
俺の大学ノートは、詞なんて増えず井波の絵ばかりが増えている。
もう、一ヶ月…井波に触っていない。
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