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〜綴〜
目が覚めたのは、ドンドンと激しく扉を打つ音がしたせいだった。
ベッドは二台並んでいたのに、俺と井波は一つのベッドで眠っていた。
眉間に皺を寄せながら髪を掻き上げる。
扉はドンドンと音を立てて揺れていた。
まだ起きない井波の頰を人差し指で撫でると昨日涙を流していたのを思い出して、胸が騒ぐ。そっと瞼にキスをした。
「つづちゃ〜んっ!!井波く〜んっ!起きてよ〜っ!もう出ないと間に合わないよっ!おーいっ!!」
ドンドンとまた音が鳴り揺れるもんだから、内開きの扉をパッと開けると、胸元に凪野が飛び込んできた。
「ぶっ!ったたぁ…」
顔面から突っ込んできた凪野は鼻先を摩りながら顔をあげた。
「大丈夫か?」
凪野を見下ろすと、ムッと膨れっ面になり、いつものお喋りが始まった。
「つづちゃんっ!何回呼んだと思ってんの?!早く出発しなきゃまたリハ飛ばされちゃうだろ!井波くんは…ゲッ…まだ寝てる」
俺は、ベッドに横たわる井波を一瞥してから、凪野の肩を撫で呟いた。
「大丈夫、すぐ起こして降りるから、先に車で待っててよ」
「…もぉ〜、早くね!」
「うん」
バタンと扉が閉まると、井波がムクッと起き上がった。
「聞こえた?」
俺は閉まった扉を親指で背中越しに指して首を傾げた。
まだ少し寝ぼけ眼の井波は目を擦りながら頷く。
「凪野が起こしに来ると高校の時を思い出す」
「ハハ…いつも起こしに来てたんだよね」
「そう…で、婆ちゃんからタダで缶コーヒー貰って店でくつろいでんの」
井波はグーンと伸びをしてベッドから降りた。
洗面台で顔を洗っている後ろからそっと抱きつく。
「井波…おはよう」
井波はタオルで顔を拭きながら、振り返ると「何それ?今?」と笑った。
おはようも、おやすみも
井波に伝えたいんだよ。
「おはよう、如月」
俺が俯いていたら、井波がそう言って唇を塞いだ。
俺は井波の頰に手をかけ、目を開きながら舌を入れる。井波も、垂れた瞳を閉じないまま、俺をじっとみつめながら、キスをした。
「今日は俺の好きな曲をセトリにぶっ込みたいな」
井波はゲンコツで俺の胸を叩いた。俺はちょっとだけよろめいたフリをして、「いいね」と片方の口角を引き上げた。
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