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……。
気が付くと、僕は元のアトリエにいた。
少女は眠っている。
その傍らで一人の少年が静かに本を読んでいた。
「キミは…」
僕が尋ねると、彼は本を閉じ、「あきらめた世界は何色でしたか」
真っ直ぐに問いを返してきた。
彼女の世界は無彩色だ。
いくつ日を重ねても夜で、孤独という名の怪物が闊歩する病的な世界。
「でも、」
最後に見たあの太陽は、
「まだあきらめたわけじゃなかったんですね」
彼女は。
アトリエ内の空気が震える。
少年はもちろん、と薄く微笑むと「俺は彼女の力になりたくて、ここに生まれた夢のかけらだからさ」
僕はキャンバスに色を走らせる。
赤、緑、青、黄色に藤色、うぐいす色、桃色・極彩色の太陽を描く。
少年がキャンバスをちらと見て、誇らしげに言った。
「俺は彼女が作ったタルパなんです」
「えぇと…」
僕が返事に困っていると、少年はゆっくりとした所作で足を組み替え「お話しましょうか」
提案してきたが、長くなりそうなので断った。
それに、タルパというモノが何なのか僕には見当もつかなかったが、少年がいる限り、彼女はずっと安全な気がしたのだ。
僕が彼女の世界で最後に見た太陽のように、少年の意志は彼女をこれからも全面的に守っていくだろう。
僕も数えきれない悲しみの夜を乗り越えてきた。
心の声が消えない限り、夢もまた尽きることがな
い。
だから、あきらめなくてもいいんだ。
「ゆっくりおやすみ」
長い旅の果てでキミの夢が色付く日を楽しみに待っているよ。
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