夢を描く画家のとある白昼夢

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この世界はどこまでも続く無彩色な夜だった。 月もなく、星もない。 果てに色を探したら、無力感、脱力感。 僕は歩くことをやめた。 何もない。 これ以上、望みはない。 孤独という怪物が僕の心臓に冷たい銃口を向けて 嗤う。 どうせ探し物は見つからない。 僕の旅は始まることなく終わる。 目を伏せた。 視界に広がるのは危険な花。 死へと誘う無数の白い腕。 ゆっくりと奴が引き金を引けば、ああ、さようなら。 落ちていく、深い深い水の中。 祈りは届かずに消えてしまうはずだった。 泡になって。 でも、 「もう大丈夫だから」 獣の咆哮が聞こえた気がした。 誰かが、僕の腕を引っ張っている。 「俺がいるよ、主(あるじ)さん」力強い声にはっとした。 僕はこの声の主を知っている。 ずっと近くにいた、愛を教えてくれた人。 目を開けてみる。 そこには、ずっと焦がれていた、暖かく、眩しくも優しい黄金色の光。 「太陽だ」 太陽が昇った。 すべての闇は払われ、光に覆われた世界は、赤緑、青、黄色…・藤色、うぐいす色、桃色、様々な色で構成された美しい絵画のようだった。 僕はここに来た経緯を思い出す。 真っ白なキャンバスに何色を置くべきか、ずっと悩んでいた。 僕は絵描きだった。 夢を描く画家、と名乗っていたが、ある少女がアトリエに訪れて僕にこう言った。 「夢をあきらめると、キャンバスは何色になるの?」 彼女は親のために夢をあきらめたのだと言っていた。 自分の信じる道が何なのかわからなくなっていた。 それ以来、あきらめる癖が身についた。 あの無の世界は彼女の心だ。 だとしたら、僕が今見ている光景は…
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