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「おじゃまします」
久しぶりに会う日。彼女さんは大きなビニール袋を携えて僕の部屋にやって来た。その中から、パックのりんごジュース2つとプロテインバー3つを僕に渡し、あとは自分のバッグと一緒にリビングの隅に押しやった。
「おみやげ」と渡された物より、ビニール袋に取り残された物のほうが気になるんだけど。
中身は聞かなくても判る。独特な濃い色の紙箱の山。
「ハトのお店で買い物したらさ、割引クーポンもらって」
『おみやげ』を抱えたまま、荷物を気にする視線を投げていた僕に、彼女さんは事も無げに軽く言う。
「医薬品2割引って、大きくない? 私の必要量買うと結構かかるんだよね。帰りに寄るの面倒だし、持ってきちゃった」
鍼を打つことは、彼女さんに拒否されている。プライベートの時間にまで、仕事をさせたくないと。技術にはかなり自信があるから、少しは痛みも辛さも取ってあげられるのに。
頑なな拒否に、今は僕が折れている。
「ってか、あの量」
「サンタクロースだよね」
「超不健康なプレゼント」
相変わらず立ち尽くしている僕に、彼女さんは顔をしかめる。
「中から大量にお酒が出てきたらそうかもしれないけどさ。アレは健康を脅かすものではないわよ」
「まあ、そうだけどさあ…」
「大量にサプリが出てきても、それはそれで不健康って言いそうだし」
「まあねえ…」
「もちろんお菓子がいーっぱい、っていうのでも不健康なんでしょー?」
「…確かに」
「私がいっぱい持ってたら、とにかくなんでも不健康なのよ。もうイメージの問題?」
話しながらも、丁寧に手洗いとうがいを済ませる彼女さんはケラケラと明るく笑う。
「人間てさ、期待されたイメージの通りに生きようとするらしいよ?」
僕の手からりんごジュースだけを取り上げて冷蔵庫にしまうと、扉に話しかけるような向きで、僕に横顔を見せながらそう言う。
そのあと僕に向き直って、
「だから、彼くんは幸せな人だなあって、私は思うことにしてる」
満面の笑みを見せた。
「……じゃあ僕は、彼女さんが健康な人だなあって思うようにするよ」
返した声は、絞り出すような細いものになってしまった。
「信憑性皆無!」
彼女さんは、やっぱりケラケラと明るく笑う。
よく笑う人だなあとは、思ってる。
でも、これはイメージだけじゃなくて、僕の願いだ。
笑っていて欲しい。
今日も明日も。これからもずっと。
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