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彩光1-⑴
「おやっ、誰かと思ったら亜蘭君じゃないか」
つい先日興業を観に行った公園の脇をてくてく歩いていた流介は、向こうからやってきた馴染みの顔――平井戸亜蘭に思わず表情を緩めた。
「今日はひょっとして宗吉君の所の手伝いかい」
「ええ、そうです。谷地頭の方までお薬を届けに行った帰りですわ」
新聞社の写真部で見る洋装に少なからず慣れ始めていた流介にとって、久々に見る和装の亜蘭は新鮮だった。
「飛田さんは取材かしら?」
「まあそうなんだが、実はまた編集部に若葉君が来ていてね、正直仕事がしづらいので逃げだしてきたってわけさ」
「まあ。あの子ったら。今度会ったら少々、きつめにお灸を据えておきますね」
「そうしてくれると助かるな」
「その代わりと言ってはなんですけど、ちょっとそこまで付き合っていただけません?もしかしたら読物の材料になるかもしれない物が見られるかもしれませんわよ」
「読物記事の材料だって?」
「ええ。青葉町にある『小天狗堂』っていう雑貨屋さんなんですけど。西洋の変わった雑貨なんかがあってきっと、楽しめると思いますわ」
――まあいいか。大体、奇妙な話と出会うのは、なし崩しに動いた時なのだから。
※
雑貨店『小天狗堂』の狭い店内には西欧の物と思しきからくりの玩具や、奇妙な形の洋燈などが所狭しと並べられていた。
「いつ来ても面白いわ、このお店。……もっとも今日で三度目だけど」
案内役を買って出たののつかの間、亜蘭は壁に飾られた西洋の珍しい写真を食い入るように見つめ始めた。
「あらっ、この写真初めて見たわ。……なにこれ、こんなこと本当にあるの?」
ただならぬ反応につられ視線を追った流介は、亜蘭の見ている数枚の写真に目を奪われた。
「うわっ、これは絵か?……いやおそらく写真だろうな。しかしこんな物が映るとは……人形か?」
亜蘭の見ていた物は、階段に座った二人の子供が「ある物」を見つめている写真だった。
「この場所は……神社の境内だな。匣館八幡宮あたりかな」
流介は絶句しながらも、写真の中央に映る「ある物」を見極めるべく目を凝らした。
「本物だったら怖いわね……子供たちは怖がっていないみたいだけど」
亜蘭が「怖い」というのも無理はなかった。子供たちが見つめているのは身の丈五寸足らずの――烏天狗だったのだ。
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