彩光2-⑶

1/1
前へ
/20ページ
次へ

彩光2-⑶

「では弟の「神隠し」についてはどうでしょう?」 「それです。言うまでもなく、姉の一計に違いありません。『烏天狗の写真』が雑貨屋に飾られ、不思議な写真として評判を呼ぶことでまだ幼い弟君の頭はいつしか現実と空想の区別があいまいになってしまったのです」 「つまり気の病に罹ってしまったと?」 「その通り。弟が本当に烏天狗を見たと言いだしたことに衝撃を受けた姉は、日ごろよく声をかけてくれている八幡の宮司に相談をしました。すると宮司はこう言ったのです。「精霊は確かにいるが、現実の心とは切り離さなければならない。弟はまだその訓練ができていないようだ」と」 「じゃあ弟さんは神隠しに遭ったのではなく……」 「神社のどこかで心の訓練を受けていた物と思われます。そしてすっかり空想と現実を分けて見られるようになった弟さんは、神隠しから戻ってきたという体で林の中から姿を現したのです。これにより、姉も父親も心の安定を取り戻しひとまずは一件落着と言うわけです」  ウィルソンはふうと息を吐き出すと「これで私の推理はおしまいです」と言った。 「では、次はあたくしが推理を……といいましても根拠のない想像のような物ですが」 「想像の話ですか……推理から余り離れないのであればよいでしょう」  日笠がやんわり釘を刺すとウメは「では」と前置き自説を語り始めた。 「私がまず思いましたのは、二人のお子さんが撮った写真として雑貨屋さんに飾られていた物は「本当に写真だったのだろうか」と言うことです」  ウメがそう前置くと、その場にいたほぼ全員が「えっ」という表情を見せた。 「写真じゃないとすれば、なんなのですか」 「もしこの匣館に「写真にしか見えない絵」を描くことのできる人物がいるとしたどうでしょう。写真ならそこにない物を写すにはからくりが必要となりますが、全てが絵ならどんな物でも現すことができるのです」 「どこからどこまでが絵だと?」 「全てです。紙に映し出された黒と白の光の加減から二人の子さんたち、神社、烏天狗。このすべてが天から与えられた才能を持つ絵師の技だったのです」 「その絵師はどこの誰でなぜ、写真の如き絵を描くにいたったのです?また、お子さんたちとはどのような関係だったのです?」 「それはわかりません。ただ、ご両親も街の人たちも本物だと思ったということは、その人物は子供たちと一緒に大人を驚かそうともくろむような、童心を持った人物なのでしょう」 「では、下の男の子が神隠しに遭ったのは?」 「絵だとと言いだすことができなくなった絵師が、仲が良かった下の子に協力してもらい天狗はいたのだという話を付け加えけりをつけようとしたのではないでしょうか」 「……なるほど、確かに想像による部分が大きいようにも思われますが、これはこれで魅力的な説です」 「ありがとうございます。これであたくしの推理はおしまいでございます」  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加