彩光2-⑷

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彩光2-⑷

 ウメが深々と頭を下げると、「では最後は私ですな」と日笠が勿体をつけるように言った。 「実は拙僧『小天狗堂』の店主、真村芳文(まむらほうぶん)氏とは知り合いであのような写真にまつわる海外の話をいくつか聞いたことがあるのです。それは、既に絵を写し取った陰画(ネガ)の上にもう一度写真を重ねて撮ると、あたかも霊が映り込んだかのように半透明の像が重なって現れるという現象であります」 「それなら私も聞いたことがあります。交霊術が盛んだったころ、亡くなった親族や先祖の霊が背後に白いもやのような姿となって写っている写真のことですね?」  ウィルソンが自身の持つ知識を披露すると、日笠は「まさにそれです」と頷いた。 「ウィルソン氏の話にあった烏天狗の人形を遠くから撮り、それに子供たちの像を重ねたとすれば、実に奇妙な写真が撮れることでしょう。しかしそれだけでは烏天狗はただの白いもやにしか見えなくなってしまいます。しかしそこにウメさんの説が加わると、心霊写真はあやかしの写真に変わってしまうのです」 「あたくしの説が加わると……ですか?」 「さよう。つまり二重に撮影し、現像した後の写真に上から特殊な画材で線を足すのです」 「線を足す……」 「烏天狗の部分にだけ、細い線を足して異様な姿を浮き上がらせるわけです。これによって白いもやに包まれたこの世ならぬ異形の精霊が出現する……というわけです」 「弟が神隠しに遭ったのは?」 「それはですね……根拠はないのですが、姿を消した祭りの日に何かがあったのではないのでしょうか」 「何か、と仰いますと?」 「たとえば、どこかの店を壊してしまったとか、預かった大事な物を無くしてしまった、などの親に見つかったら叱られることが確実な出来事です」 「まさか、それをごまかすために……?」 「弟一人だけの失敗ではないかもしれません。姉と一緒になって何かをしでかした結果、とにかく騒ぎを起こして失敗から父親の目を逸らさせよう……そんな行き当たりばったりの行動が「神隠し」にされてしまったのかもしれません」 「だとしても誰かが協力しなければ、丸二日もの間行方をくらませることはできないと思うのですが……」 「あの祭りの日、縁日には『小天狗堂』も店を出していたはずです」 「店主が?」 「確かめたわけではありませんが、烏天狗の写真を宣伝に使わせてもらった店主が「二日間だけ」身を隠させてと頼まれ、つい子供たちの願いを聞き入れてしまった……とも考えられます」 「何とも荒唐無稽ですが、妙に辻褄があっていますな」 「恐縮です。拙僧の推理はこれを持って終わらせて頂きます。……さて、各々の説が出そろったところで本日の推理を決めたいと思います。みなさん、私が合図したらもっとも頷けた説の人物を指で示すか、自分だと思った場合は手を上に上げて下さい。……では、どうぞ」  日笠が号令をかけると、ウメとウィルソンが日笠を、日笠がウメをそれぞれ指した。 「わかりました。では拙僧の説を本日の推理と致しましょう。これにて例会の前半を終了したいと思います」  日笠が恭しくお辞儀をすると、参加者たちが一斉に控えめな拍手を送った。
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