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彩光3-⑴
「向こうに着くまでに、まずは写真の謎を解いておきましょう」
「ええっ?謎を解くために中島町に行くんじゃないのかい」
「そっちの謎は「なぜああいう写真が撮られたのか」です。それにここで解けるのは最初に見たという四枚の写真の謎であって、お店で見せてもらった五枚目の写真の謎は、向こうに行って現場で解かなければなりません」
「現場……というと八幡宮かい?」
「そうです」
「いつもながら勿体をつけてくれるな。よくわかるように説明してくれないか」
「はい。結論から言うと、天狗は実在の生き物ではありません」
「そう考える理由は?」
「焦点です。写っている人物の輪郭と烏天狗の輪郭が微妙に違うのです」
「輪郭が……」
「写真という物は一瞬をとらえるものです。これに対し、人間や動物などはどんなにじっとしているつもりでも常にどこかが動いているのです。そのため、人間を写すとわからないくらい微かに輪郭がぼやけるのです。ところがこの烏天狗は、まるで絵のようにくっきりと写っています。つまり生き物ではないということになります」
「じゃあなんなんだい。絵だとでもいうのかい」
「その通りです。切り抜いたかのようにくっきり見えるということは、この天狗がまさに切り抜かれた絵であることを示しています」
「絵を切り抜いただけ、だって?」
「はい。おそらく黄表紙か赤本……おとぎ話の挿絵のような物を切りぬいて板か何かに留め、二人の真ん中に置いたのでしょう。切り抜き方がとてもきれいなため、絵であることに気づかれなかったのです」
「たしかに生き物ならあるはずの足元の影が無いな……」
「でしょう?影はその者が生きていることを示す重要な証拠です。これにはそれがないのです」
天馬は表情を一切変えることなく、ほんの一瞬眺めただけの写真の秘密をあっさりと解き明かしてみせた。
「さすがは天馬君、鋭い観察だ。……しかしこの事件の裏側にはもう少し混みいった何かがあるような気がするんだが」
「その通りです。それをこれから祓いに行こうではありませんか」
「祓いに……というと神社に?」
「もちろん、そうです」
天馬は窓の向こうの海岸を見据えると、「家」の舳先をゆっくりと船着き場の方に向けた。
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