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彩光4-⑴
「……じゃあ、行きますね。私とお父さんが出て来たら、ばったり出くわしたって思われるように歩いて来て下さい」
桃音はそう言うと、自宅である店の方に向かって駆けて行った。
やがて「まだそんなことを言っているのか。ぶらっと出て行っただけではないのか」という男性の緊張した声が響いて、戸口から桃音と父親の七兵衛が姿を現した。
「あっ、飛田さん、水守さん」
「おや、どうしたんです血相変えて」
桃音の芝居に天馬がとぼけた口調で応じると、七兵衛は足を止め訝し気に流介たちの方を見た。
桃音が慌てて流介たちの事を説明すると、七兵衛は「記者さんですか」とわずかに表情を緩めた。
「飛田さん、実は姉さんが「天狗の所に行く」って書置きを残していなくなってしまったんです」
「何だって、天狗の所に?」
流介は背後に天馬の視線を感じながら、精一杯慌てた素振りをしてみせた。
――天馬君、これでも精一杯お芝居をしているんだ。贅沢は言うまいな。
流介が小声でぼやくと、天馬が「例の物をばらまく準備を」と囁くのが聞こえた。
「――見て父さん!こんなところに烏の羽根が!」
ふいに桃音が大声を上げ、七兵衛の「なんだと、烏の羽根?」と言う声が通りに響いた。
「……本当だ」
「きっと姉さんを連れて行くときに落ちたのよ。もっとあるかもしれないわ。うまくすれば天狗の後をつけられるかも」
「まさか、おまえいくつになったと思ってるんだ」
七兵衛が戸惑っている間にも、桃音は烏の羽根を求め通りをあちこちさまよい始めた。
「……ええい、仕方ないな」
七兵衛が娘を追って歩き出すと、天馬は「手分けしましょう。次に「発見」するのは僕ですから、飛田さんは僕が見つけた後で目的地に近づくよう「発見」して下さい」と言った。
流介は少し先――目的地「寄り」の通りに移動すると、歩く人の邪魔にならないよう道端にそっと黒い羽根をばらまいた。
やがて通りの向こうから「あった!こっちにもありましたよ桃音さん」という天馬の声が聞こえてきた。
――よし、天馬君が見えたら僕の番だな。
しばらくすると突き当りの角から天馬が顔を出すのが見え、流介は「こっちにもありましたあ!」とあらん限りの声で七兵衛たちに伝えた。
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