復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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半年前。 千代が青森から取り寄せたジュースの瓶が、運搬中の事故で割れた。 宛名の『小羽 千代様』に、お詫びの電話を入れた香帆が、 「こば様の御宅ですか?」と言ったのが、始まりだった。 ジュースは代品を送ることで解決したが、香帆は上司から注意を受けた。 「御名前は、きちんと確認してからお呼びすること」 確かにそうだ。 香帆は(こば? こばね? おはね? おばね?)と迷っていた。 担当ドライバーに読み方を訊けば、失礼が無かったはずだ。 (おば様 だったの……) この日は美緒が休みだった。 もし出勤していたら、香帆にアドバイスをくれただろう。 その日の午後。 千代は「怒ってない」ことを伝えるために営業所を訪れた。 「こんにちは。ジュースのこと、気になさらないでね」 「あ、あの、おば様ですか?」 「はい。いつも感謝しています。皆様でどうぞ」 高級なお菓子まで差し入れてくれた。 「おば様。私、御名前を間違えました。大変申し訳ございません」 「いいのよ。よく間違われるから。いろいろ読めますからね」 (なんて素敵な人だろう) 香帆は羨望の眼差しで千代を見た。すると千代は意外なことを言った。 「私、ミューチューバ―なの」 「え?」 「もしよかったら、観てくださいね」 千代は[チャンネル名]を書いた名刺を香帆に渡した。 「はい。必ず拝見します」 香帆は、千代のミューチューブを観た。 お世辞抜きで面白かったので、チャンネルを登録した。 「感想を伝えなくちゃ」 名刺に書かれた連絡先から、千代との交際が始まった。 香帆と千代は、すぐに仲良くなった。 タワー・マンションに招待されて、「香帆ちゃん」「おばさま」と呼び合う仲だ。
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