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「全額でございますね?」
香帆が「三千万円を下ろす」と伝えると、銀行員は2回確認した。
実家の〈建替え〉に使うと話すと、納得したようだ。
大手銀行では、この程度の現金は普通に動くのだろう。
銀行員はテキパキと作業を進めてくれた。
香帆は、現金三千万円をショルダーバッグに入れて銀行を出た。
三千万円は『銀行の紙袋』に入れて渡された。
紙袋には〈銀行名〉が印刷されている。
一万円札の重さは〈約1g〉だから、三千万円は〈約3㎏〉だ。
厚さは〈約0.1mm〉だから、三千万円で〈約30㎝〉だ。
宅配便の受付をしている香帆には、小さな荷物といえる。
(でも、怖い)
大金を持って道を歩くと、想像以上に緊張する。
街中の人が、ショルダーバッグを狙っているように見える。
早歩きも、ゆっくり歩きも不自然だ。
香帆は「自然に自然に」と注意しながら、指定されたファミリー・レストランに着いた。
「久しぶりですね」
「え……」
桜志郎は(まるで別人)に見えた。
顔は整って綺麗なままだが、目が冷たい。
『爽やかで優しい塾経営者』の面影は、まったく無かった。
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