復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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1ヶ月前。 「いらっしゃいませ。御荷物(おにもつ)をお預かり致します」 香帆は29歳の主婦。 パート勤務で『宅配便の受付』をしている。 「こちらの御荷物を京都にですと、1500円でございます」 営業所に持ち込まれる荷物の〈大きさ〉と〈重さ〉を計って、 運送代金を受け取る仕事だ。 お中元、お歳暮、母の日、父の日、バレンタイン、クリスマス……。 荷物が動く繁忙期は、急激に仕事量が増える。 個人売買のフリマアプリが人気で、大量の商品を持ち込む人がいる。 [配送ミス]や[荷物事故]のクレーム対応もあり、 データ入力や備品発注など事務作業も多い。 同僚の藤崎(ふじさき)美緒(みお)と協力して、多忙な業務に就いている。 美緒は30歳の正社員で『クレーム処理の達人』と呼ばれている。 苦情を入れた客に誠心誠意の対応をして、怒っていた客が最後は「ありがとう」と言うほどだ。 しかも美人で独身。常に冷静で頼りになる最高の同僚だ。 香帆も正社員だったが、同じ営業所の『宅配便ドライバー』颯真と1年前に結婚した。 結婚を機に香帆は一日5時間のパート勤務になり、颯真の〈扶養〉に入った。 颯真は別の営業所に移動した。 夫婦は同じ営業所に勤務できない、という社内規定があるからだ。 香帆と颯真は2LDKの賃貸マンションに住んでいる。 5階の南向きの部屋で、香帆は一目で気に入った。 「颯真さんに生命保険を掛けなさい」 結婚後、実家の母が香帆にアドバイスをした。 颯真は車に乗る仕事だから「もしも」のときに必要と諭され、 香帆は颯真を保険に入れた。 死亡保険額は三千万円。受取人は香帆だ。 「その額なら安心ね。子供はまだなの?」 美緒はプライベートもどんどん訊いてくる。 「そろそろ妊活しようかな」 仲良しの美緒には何でも答える。すごくいい関係だ。 家庭も職場も円満で幸せ、と思っていた香帆だが……、 (颯真は絶対に浮気してる!) 香帆は確信した。 颯真の勤務内容は詳しく知っている。騙されるわけない。 新婚1年目なのに? 円満だと思ってたのに?  妊活しようっていったのに?  なぜ?  苦悩の日々が始まった。
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