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『死者面談室』で〈自分が殺された動画〉を観た颯真は、激しく動揺した。
(俺は殺されたんか)
(あの男は何者や? 香帆との関係は?)
(死んでも死にきれへん)
その瞬間、大きな警報音が面談室に響いた。
「な、なんや?」
「佐山颯真さん、現世に未練が生じましたね」
面談室スタッフの三途川が、残念そうに言った。
「天国行きが難しくなりました」
「え? なんで?」
「特典③を選んだ方に多い傾向です」
特典③は『死ぬ直前の30分を動画で観る権利』だった。
「動画を観て何らかの『未練』が生じた場合、成仏できず天国に行けません」
「困るやん。どしたらエエん?」
「現世にかえって、未練をなくして下さい」
「かえる? 生き返れるんか?」
「いいえ、生きては帰れません。幽霊になって戻って頂きます」
「幽霊!?」
「注意事項があります」
50インチのモニターが消えて、颯真の前にホワイト・ボードが現れた。
三途川は、長い〈指し棒〉を持っている。なぜか眼鏡を掛けていた。
「もう、先生やん」
注意事項は三つあった。
一つ、幽霊の姿が見えるのは『未練の原因を作った者』だけ。
二つ、現世にある『人』や『物』に触れない。
三つ、3ヶ月以内に未練が消えないと、成仏できずに地獄に堕ちる。
「佐山颯真さんの未練は、【怨念】と思われます」
「おんねん?」
「誰かを【深く強く恨む】思いです」
「そうや。俺を殺したヤツを恨んでるし、香帆も怪しい」
「その気持ちが晴れたら、成仏できます」
「まずは、ボカン! と、一発どついたる」
「それは無理です。相手に触れませんから」
「あ、そうか」
颯真の拳は、桜志郎の身体の中を通過するだけだ。
相手は痛くも痒くもないだろう。
「そや、金属バットで、」
「いいえ、凶器で傷付けるのも無理です。凶器を持てませんから」
「ほんなら、車で轢いたら、」
「無理です。現世にある『物』に触れません」
車の運転もできない、ということだ。
颯真は首をひねって考えた。
「けっこう厄介やな」
「もし、相手を殺したら地獄行きですから。その配慮です」
「なるほど」
三途川は、姿勢を正して颯真の目を見た。
「それでは3ヶ月以内に怨念を晴らして、現世の未練を無くして下さい。目指せ成仏です」
「わかりました」
『目指せ! 成仏!』と書いた団扇を振る三途川に見送られ、颯真は幽霊になって現世に戻った。
現世で颯真の姿が見えるのは、『未練の原因を作った』香帆と桜志郎だけだ。
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