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話を聞いた香帆は考えた。
現世の『物』に触れない、ってことは・・・・・・、
「あ、やっぱり。ちょっと浮いてる!」
颯真は床に立っていない。足と床の間に少し隙間があった。
フワフワして見えたのは、そのせいだ。
「やかましなぁ・・・・・・。しゃあないやろ」
颯真は、浮いたままソファーに移動して座った。
ソファーからも少し浮いている。
「浮いてるなら座らなくても」
「家で立ってるのは変やし、座った方が楽な気がする」
香帆は、また冷蔵庫を開けて中を見た。
「モノに触れないなら、御飯も食べられないよね」
「なんや、その『一食分得した』みたいな言い方」
「最近は食欲無くて、買い置きが減ったから」
「え? 身体は大丈夫なんか? わぁっっ!」
颯真に向かって、オレンジが飛んできた。
オレンジは颯真の身体を通過して、ソファーの背凭れに当たった。
「ビックリするやんか」
「食欲無いのも、颯真が浮気したからでしょ!!」
そのせいで、そのせいで・・・・・・、
「それは悪かったけど、俺も心配なんや」
「何が?」
「ホンマに、あの男とデキてないんやな?」
颯真は、かなり心配している。
『現世の未練』の一つだから、確認したいようだ。
ここが明確にならないと、桜志郎に復讐しても成仏できない。
「私が浮気? してるわけないでしょ」
「俺はあの男を恨んでる。香帆は?」
「あんなヤツ絶対に許せない。必ず復讐する」
「よっしゃ! 協力するで」
とは、いっても……、
「どうやって協力するの?」
桜志郎の身体にも、物にも触れないのに。
「俺の担当は、情報収集や」
颯真はフワリと立ち上がると、閉まっている窓から外に出た。
「え?」
香帆が窓を開けると、颯真が目の前にいる。
この部屋は、賃貸マンションの5階だ。
颯真の身体は空中に浮いていた。
「ダメよ。大騒ぎになる」
「大丈夫や。見えへん」
颯真は、壁を突き抜けて部屋に戻った。
「便利やろ。アイツの部屋も調査済みや」
「え? 家を知ってるの?」
「三途川さんに教えてもろた」
香帆は、一番気になることを訊ねた。
「アイツは、あの毒薬をまだ持ってる?」
「あと一つあるみたいや」
あんな男に、あんな薬を持たせていたら、また被害者が出る。
こっそり薬を取り上げたいが、颯真は『物』に触れない。
「それとな。アイツの部屋に三千万円あるで」
「え? 派手に使ったと思ってた。外車買うとか」
「やっぱり、あの金は俺の生命保険か」
「うん。口止め料に取られた。自分が殺したくせに」
「一銭も使わんと家に置いてる」
ということは……。
しばらく考えた香帆は、スマホを開いた。
「アイツに連絡する」
「連絡? なんでや?」
「考えがあるの」
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