復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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ファミリー・レストランでワインを飲んだのは初めてだ。 桜志郎より先に着いた香帆は、赤ワインをボトルでオーダーした。 ワインを飲みながらツンと澄ましていると、桜志郎が現れた。 桜志郎は香帆の変化に驚いた。 (自由になりたいとか言ってたが、旦那が死ぬと、女は変わるな) 昼間から酒を飲んでる。 服は胸元の開いたブラウスにミニスカート。靴はハイヒール。 化粧はフルメイクで、ネイルは大粒のラメ入り。 髪は美容院(サロン)でセットしたばかりのようだ。 「香帆さん、今日は特にお綺麗ですね」 「あら、塾の先生とは思えない言葉ね」 「あ……、美しい女性を前にして、職業は関係ないです」 (うわっ! 根っからのホストなんだ) 気持ち悪っ! と思った香帆だが顔には出さない。 桜志郎は軽く会釈して、香帆の前に座った。 ここからが本番だ。 「あの薬を1億円で売って」 「なぜ?」 「次は伯母を殺したいの。一人殺しても、二人殺しても同じだし」 「伯母さん?」 「母の姉よ。いま64歳。すごいお金持ちなの」 香帆は、ワインを飲みながら伯母の話を始めた。 名前は、千代(ちよ)。 千代は資産家と結婚したが、子供に恵まれなかった。 2年前に夫が亡くなって、遺産は千代が全額相続した。 千代の唯一の相続者は、実妹の〈香帆の母〉だけだ。 千代が死ねば、母に遺産が渡り、いずれは一人娘の香帆が相続する。 「凄いじゃないですか。いずれは大富豪ですね」 桜志郎が、香帆のグラスにワインを注いだ。 「お上手ですね。慣れてるんですか?」 「ま、まさか。僕もワインを(たしな)みますので」 「でも、私が相続する〈いずれ〉は来ないの」 「え? どうして?」 「社会貢献のために『遺贈寄付』するんだって」 「あの、公益団体に寄付するっていう?」 地域社会の発展や子供育成のために、遺産をNPO法人、学校、自治体などに寄付する行為を『遺贈寄付』という。 千代は、遺産の全額を『遺贈寄付』すると決めて準備を始めた。 「だから、手続きが完了する前に、叔母を殺したいの」 「どれくらいの額ですか?」 「株と不動産だけでも十億超えだって。現金や金塊(ゴールド)もあるし」 香帆はワイングラスを持ったままニヤリと笑った。 「1億の薬代なんて、すぐに払えるわ」 「悪い人ですね」 「せっかく自由になれたの。あとはお金が欲しいだけ」 桜志郎は、話を確かめたいと思った。 「叔母様に会わせて頂けませんか?」 「いいわよ。紹介する」 千代は、タワー・マンションの最上階に住む、優雅なマダムだった。
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