復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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タワー・マンション最上階の部屋。 富士山が見えるリビングで、香帆と桜志郎はハーブティーを飲んでいた。 二人の前に千代が座っている。 テーブルには、神戸で人気の洋菓子と、京都老舗の和菓子が並んでいる。 壁には世界の観光地で撮った、千代と夫のツーショット写真が飾られている。 千代の夫は旅行が好きで『世界遺産』をすべて観たいと言っていた。 「香帆ちゃん、ようこそ」 「伯母様、こんにちは。こちらは友達の狩野さんです」 「まぁ、素敵なお友達ね。とってもイケメン」 「初めまして。狩野桜志郎と申します」 玄関で挨拶をしながら、桜志郎は千代を観察した。 髪は染めずに白髪のままだが、美しくセットしている。 メイクは上品だ。(しわ)を厚化粧で隠す気はないらしい。 指輪は結婚指輪だけ。イヤリングやピアスは付けていない。 でも、胸元を飾るエメラルドのブローチは数百万円か? 若作りしていないのに、若々しさと可愛らしさまで感じる。 桜志郎は壁の写真を見た。千代が20代の頃だろう。 (うぉ、すごい美人。しかも気品がある) これなら資産家も惚れるな、と思った。 千代は、2年前まで横浜の高級住宅街に住んでいた。 夫と二人暮らしなのに部屋数が多く、庭の管理も手間が掛かる。 夫と死別後は、都内のタワー・マンションに引っ越した。 「大きな家で一人暮らしするのは大変。マンションの方が便利なの」 横浜の豪邸は、不動産屋を通じて人に貸している。 「貸した人が気に入ってくれて、近いうちに売却するのよ」 ということは、かなりの現金が入る、ということだ。 香帆と桜志郎は、思わず目を合わせた。 すぐに目を伏せた桜志郎は、テーブルの洋菓子を一つ食べた。 「とても美味しいですね」 「神戸からのお取り寄せよ。和菓子は京都のお取り寄せ。  いつも香帆ちゃんの所の人に、持って来てもらうの」 「香帆さんの所の人? 宅配便?」 香帆はニコリと笑った。 「そう。このマンションは、私が勤務してる営業所の担当地区よ。  集荷も配達も、ウチのドライバーが伺ってるの」 「マンションのコンシェルジュにお任せだけど、お世話になってるわ」 「いえいえ、ありがとうございます」 「あ、でも……、体調はいかが? 長くお休みしてるでしょ?」 「大丈夫です。明後日(あさって)から出勤します」 「ああ、よかったわ」 「お二人は仲がいいんですね」 桜志郎の言葉に、香帆と千代は顔を見合わせた。 「そうね。香帆ちゃんのこと大好き」 「私もです。伯母様」 無邪気に笑う香帆を見て、桜志郎は(この女、かなりヤバイな)と思った。 殺して遺産を分捕るくせに、可愛い顔で相手を見ている。 で、俺の取り分は、たったの1億?  (舐めやがって!!)
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