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「えっ? 伯母様と結婚する???」
スマホのスピーカーから聞こえる香帆の声は震えていた。
桜志郎はシングルベットに寝転び、枕元にスマホを置いている。
「香帆さんとも親戚になりますね。式は挙げるので出席して下さい」
「ちょっと待って! 伯母様は64歳よ」
「年齢は関係ない。僕は千代さんのすべてを愛してる」
「伯母様は どう言ってるの?」
「プロポーズに応えてくれました。では、また連絡します」
電話を切った桜志郎はニヤリと笑った。
桜志郎と千代が出会ったのは10日前。香帆が驚くのは当然だ。
タワー・マンションから帰るとき、桜志郎は丁寧に挨拶をした。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「こちらこそ。またいらしてくださいね」
「そんなことおっしゃると、本当に来ますよ」
「ええ、ぜひ。お待ちしてます」
普通の〈社交辞令〉だが、桜志郎は翌日もタワー・マンションを訪問した。
「昨日はありがとうございました。どうしてもお礼がしたくて」
プレゼントは[小さな花束]を選んだ。もちろん理由はある。
千代のようなマダムは、花に慣れているからだ。
華やかな場所や高級な店舗は、華道家が生けた花が飾られている。
資産家の夫は、記念日ごとに立派な花束を贈っていただろう。
無理して予算限界で買っても、見劣りするだけだ。
だから、あえてミニブーケにした。
「まぁ。可愛い」
「もっと大きな花を買いたかったのですが」
「いいえ。本当に素敵」
二人はお茶を飲みながら話をした。
千代は話題が豊富だ。旅行、観劇、映画、グルメ、スポーツ……。
桜志郎は、どの話題も無難に合わせることができた。
ホストクラブには様々な客が来るから、一通りの知識は頭に入れている。
千代は桜志郎が気に入った。
「桜志郎さんは多趣味で博識ね。また来てくださる?」
「もちろんです。喜んで」
桜志郎は千代のマンションに通い続けた。
そして今日の午後3時ごろ……。
「千代さん。僕は貴女を愛してしまいました」
「私も同じ気持ちです」
桜志郎は千代の足元に跪いて、両手を差し出した。
「千代さん、僕と結婚してください」
「嬉しいわ。幸せです」
桜志郎は千代を優しく抱きしめた。
「では、また連絡します」
香帆の電話を切った桜志郎は、シングルベットから起き上がった。
グルっと部屋を見渡す。
築年数20年のワンルーム・マンションだ。
「ついに、ここから脱出してやる」
最後の〈一包〉を使うときがきた。
結婚したら、千代を毒殺して遺産は独り占め。
同罪の香帆が訴えることは絶対にない。
完全犯罪で、10億円以上が手に入る。
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