復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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桜志郎は21歳で大学を中退した。 経済的にも健康的にも問題なかったが、遊び癖がついて単位を落としたからだ。 両親は留年を勧めたが、大学に未練はなかった。 スティーブ・ジョブズもビル・ゲイツも大学を中退している。 日本の有名実業家にも、大学中退者はいる。 「俺もデカイことをやってやるぜ!」 と思っていたとき、遊び仲間からホストに誘われた。 「売上が無くても『最低保障給』があるから安心だよ」 「オマエは女にモテるから大丈夫だって」 いま思えば、彼は店から『紹介料』を貰っていたようだ。 桜志郎も「女の相手をするだけ」と思って、バイト感覚で入店した。 だが新人は雑用に追われる。開店前の準備や、閉店後の片付けも担当だ。 ルールやマナー、シャンパン・コールの練習など、覚えることも多かった。 しばらく経つと、いろんなモノが見えてきた。 18歳で入店して、酒も飲まずに売れてるホストがいる。 億の金を稼ぎ出す、凄腕のカリスマがいる。 桜志郎にも欲が出てきた。バイトでも売れた方がいい。 大事なのは個性(キャラ)だ。 〈犬系〉〈猫系〉〈プリンス系〉〈アイドル系〉〈芸人系〉〈恋人系〉〈友達系〉〈S系〉〈ドS系〉 ホストは個性(キャラ)を〈系統〉でアピールする。女性客に『ハマる』ことが大切だ。 (今までに無かった個性を作りたい……) 桜志郎は試行錯誤したが、そう簡単に「新しいモノ」は生み出せない。 結局〈(さわ)やかアイドル系〉を続けた。 ホストクラブには『序列』がある。 店によって違うが、桜志郎の店では10種の役職があった。 平ホストの次が、リーダー。 その上に、ホスト長→幹部補佐→副主任→主任→支配人→店長→代表→社長と続き、一番上が、経営者であるオーナーだ。 桜志郎は1年経ってもバイト感覚で、出世欲は無かった。 (ホストは仮の姿。必ずデカイことをやってやる)と思っていた。 それにバイトでも(人気も売上もあるし)と(たか)(くく)っていたら、とんでもない新人が入店して、初日から桁違いの売上を上げた。 (こんなヤツがいるのか) 桜志郎は新人に敵わなかった。 桜志郎の客が〈5段三角形のシャンパンタワー〉を積んだら、 新人の客は〈6段四角形のシャンパンタワー〉を積み上げる。 桜志郎が[その上]をいけば、新人は[上の上]をいく。 どうしても勝てない。 (あ、俺、才能ないわ) ホストを辞めようと思ったが、いつのまにかホスト業界が好きになっていた。 (なら、オーナーになればいい) 元々、経営者志望だった。ピラミッドの頂点に立ちたい。 この日から桜志郎は『経営者の視点』で店を見始めた。 店もホストもサービスも「俺がオーナーなら」と思って観察した。 入店して3年が経ち、桜志郎は24歳になった。 ホストクラブのオーナーになりたい。だが、途方もない金が必要だ。 旦那に浮気された主婦から騙し取った三千万円では、焼け石に水だ。 だが、千載一遇のチャンスが巡ってきた。 桜志郎には、目を付けていた『物件』があった。 有名シェフ監修のレストランだったが、オーナーの引退で閉店した店舗だ。 場所も広さも申し分ないが、敷金などの準備金や、改装費用が高額だ。 店の内装は豪華に、備品は高級品を揃えたい。人材もハイレベルを雇いたい。 (金は、いくらでも必要(いる)) 千代と結婚したら、資金は湯水のように使える。 この勝負は必ず勝てる! 桜志郎は確信している。
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