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「香帆ちゃん、おもしろい動画が撮れたわ」
タワー・マンション最上階の部屋。
富士山が見えるリビングで、香帆と千代はハーブティーを飲んでいる。
今日のお取り寄せは、北海道の銘菓と宮崎のマンゴーだ。
「素敵な俳優さんを紹介してくれて、ありがとう」
2年前。
夫を亡くして落ち込む千代に、友人が[ミューチューブ]を勧めた。
「これ流行ってるの。楽しいわよ」
千代は興味無かったが、せっかくのお勧めなので少し観てみた。
すると面白かった。
高齢者のミューチューバ―もたくさんいる。
「私にも できるかも……」
千代は[ミューチューブ教室]に通って、撮影と編集を学んだ。
必要な機材は、最高級品を買い揃えた。
初めての配信は『お取り寄せ品の紹介』だった。
「どこから何を取り寄せたか、どんな味で、お勧めはどれか」を配信すると、2人の視聴者から「いいね」をもらえた。
「わぁ、うれしい!!」
千代はミューチューブに夢中になった。
1年が過ぎると、喋りや演技も上手くなった。だが、
「一人だと、面白くないわ」
視聴者を飽きさせない『会話』が必要だ。
相手役を募集した。出演料を払えば出演してくれる人がいた。
新人の劇団員や役者は、千代の期待に応えてくれた。
撮影も編集も上達した。長い動画も お手の物だ。
「次は恋愛物を撮りたいな」と思っていたら、
「カッコイイ新人俳優さんがいますよ」と香帆が教えてくれた。
千代は、リビングの4カ所にカメラを仕掛て撮影を開始した。
新人俳優は、千代が望む以上に「甘くて、クサい」言葉を吐いた。
香帆は、フォークに刺したマンゴーを食べながら訊ねた。
「どんな動画になりそうですか?」
「タイトルは『40歳差の恋愛ごっこ』。前編、後編の大作なの」
予想以上の出来栄えに、千代は御機嫌だ。
「跪いてプロポーズしたのよ」
「王子様気取りですね」
「彼は将来スターになるわ。本当にいい動画が撮れたもの」
「楽しみです。私、小羽様のミューチューブ大好きです」
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