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「香帆、もう電話できるんか?」
「うん大丈夫。コレ食べたら掛ける」
香帆は、テイクアウトした牛丼をリビングで食べている。
颯真が死んでから自炊が減った。
弁当も作らないから、会社では[カップ麺]か[総菜パン]が多い。
栄養なんて週1回取ればいい。贅沢御飯は月1回で十分だ。
(本当に楽になったな)と思う。
幽霊の颯真は、ずっとマンションにいる。
帰宅するとソファーに座っているので、死んだ気がしない。
ただ、ちょっと浮いてるのが気になる。
颯真の担当は、桜志郎の偵察と情報収集だ。
こんなとき幽霊は便利だ。壁もドアも抜けられる。
一つ重要なことは〈桜志郎には颯真が見える〉ということだ。
幽霊の姿が見えるのは『現世で未練の原因を作った者』だけ。
桜志郎には、颯真の姿が見えて、声が聞こえる。
下手に顔を合わせない方がいい。
颯真が集めた情報で、香帆が一番驚いたのは、
「え? あの三千万円まだあるの!?」
「一銭も使わんと、家に置いてる」
「派手に使ったと思ってた。外車買うとか」
「アイツは自分の店を持ちたいんや」
ということは……。
牛丼を食べ終えた香帆は、充電していた〈黒いスマホ〉を手に取った。
待ち受け画面は、マーライオンの前で笑う香帆と颯真。
新婚旅行のシンガポールで撮ったツーショットだ。
「颯真のスマホ、まだ使えるよ」
「解約せんでよかったな」
香帆は、颯真のスマホから桜志郎に電話を掛けた。
颯真の口元にスマホを寄せる。
5回目のコールで桜志郎が出た。
「オマエが、桜志郎とかいうヤツか?」
「は? 誰ですか?」
颯真はドスを利かした低い声で言った。
「ワシは佐山颯真の弟や。兄貴を殺したそうやな」
「え?」
「兄貴の嫁が、なんもかも吐いたで」
「え……」
香帆が電話に出た。
「バレちゃった」
「香帆さん……」
香帆はスマホを颯真の口元に寄せた。
「で、どないしてくれるんや?」
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