復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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不動産会社から桜志郎へメールが届いた。 『賃貸借契約書を作成しました。ご契約にお越しください』 「ついに、経営者(オーナー)か」 桜志郎はメールに向かって、(さわ)やかにウインクをした。 新店舗を開店するなら、前の店が繁盛していた場所がいい。 (すた)れて閉店した店の跡地は「縁起が悪い」といわれている。 桜志郎が目を付けた物件は、半年前まで人気レストランだった。 オーナーの引退で惜しまれて閉店した店で、場所も広さも申し分ない。 店舗物件は二種類ある。〈居抜き物件〉と〈スケルトン物件〉だ。 〈居抜き物件〉は前の経営者が残した『内装』『設備』をそのまま使える。 『什器』や『家具』もあるし、『食器』が残っているときもある。 経費と時間は節約できるが、前の店と似ているし古い感じがする。 桜志郎が狙っているのは〈スケルトン物件〉だ。 『内装』『設備』がすべて撤去されて、骨組み(スケルトン)しか残っていない。 床や壁はコンクリートの打ちっぱなしで、配管は むき出しの状態だ。 レイアウトやトーンなど、店を自由にプロデュースできる。 だが〈スケルトン物件〉は、経費と時間が掛かる。 賃貸借契約をしても、すぐに開店できない。 内装工事、外装工事、電気配線工事、給排水工事が必要だ。 内装に合った照明、家具、装飾品、空調設備、音響装置も必要だ。 (こだわ)りが強ければ、業者との打合わせも長くなる。 すべての工事が終わるまで、3ヶ月以上は掛かるだろう。 「先輩(アイツ)の店は、工事に半年かかって、開店1年後に(つぶ)れたな」 ホスト3年目の桜志郎は、いろんなパターンを見ている。 「結局、金だ。物件取得費と運転資金も要るし」 『物件取得費』は不動産会社に支払う、保証金、礼金、仲介手数料だ。 保証金は「家賃の12か月分」で、かなりの出費になる。 『運転資金』は、店を運営する現金。 家賃、水道光熱費、通信費、仕入れ費、消耗品費、広告費、人件費などだ。 費用の合計を「固定費」という。 安心して営業するには「開店(オープン)時に半年分の固定費が必要」といわれている。 「あの三千万円があれば」 〈スケルトン物件〉の工事費、不動産会社の物件取得費、開店後の固定費。 あの三千万円を使うはずだった。 『賃貸借契約書を作成しました。ご契約にお越しください』 桜志郎は、不動産会社のメールを見直した。 三千万円は無くなった、けど、大丈夫。 「俺には……、千代さんがいる」
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