復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

5/68
前へ
/68ページ
次へ
「いらっしゃいませ。こちらの御荷物ですね」 香帆は桜志郎から荷物を受取り、〈大きさ〉と〈重さ〉を計った。 箱は大きいが軽い。衣料品が入っているようだ。 「通販の返品です。サイズを間違えてしまって」 照れて笑う桜志郎は可愛いかった。まるで人気アイドルのようだ。 (なんか、(いや)されるなぁ) 桜志郎は「いい印象」だけを残して、(さわ)やかに帰っていった。 香帆は初めて見る客だ。美緒に訊いてみた。 「今までに来たことあった?」 「知らない。初めてだと思う」 香帆は(また来てくれたらいいな)と思った。 嫌なことが続いて暗い気持ちの香帆が、少しだけ明るくなれた。 恋愛感情ではない。 ファン? じゃなくて、『推し』ってこんな感じかな? と思った。 一瞬しか会ってないのに、心を(つか)まれた気分だ。 仕事の終了間際に、颯真からLINNが届いた。 『先輩に誘われたから飲みに行く 先に寝といて』 絶対にウソだ。 誰にも相談できないけど、グチャグチャの頭の中を整理したい。 香帆は、仕事帰りに駅前のカフェに行った。 セルフサービス式の人気店だ。 カウンターの一番端に座ってカプチーノを飲んだ。 でも、味がしない。香りも感じない。 (もう、ダメなのかな。このまま真っ白になるのかな) 香帆の目に涙が溢れたとき、 「あれ? 宅配便の(かた)ですよね」 コーヒーを持った桜志郎が、斜め後ろに立っていた。 「今日はお世話になりました。ココ座ってもいいですか?」 「は、はい」 桜志郎は香帆の隣に座った。 「あれ? 泣いてるの?」 桜志郎が香帆の瞳を覗き込んだ。 香帆の目から涙がこぼれ落ちた。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加