復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

6/52

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「ちょっと……、目が痛くて」 香帆は、カフェの紙ナプキンで目を押さえた。 ハンカチを出す余裕がなかった。 「お忙しいから、疲れ目ですね」 香帆の判りやすい嘘に、桜志郎はサラリと合わせてくれた。 (優しい人だな) その気持が香帆には嬉しかった。 桜志郎は24歳。香帆より5歳年下だ。 「塾の先生ですか。お偉いですね」 「いや、僕は教えてません。システムを開発しただけです」 桜志郎は仕事の話しを始めた。 在学中に起業した〈塾経営〉が軌道に乗り、卒業後も続けていること。 講師は〈学生時代の仲間〉を雇用していること。 最近は〈オンライン講義〉の受講生が増えていること。 オリジナルの〈参考書〉を製作中で、全国的な販売を計画していること。 「僕は経営と企画担当です。うまくいってるのは仲間のお陰です」 「凄いですね」香帆は素直に感心した。 この若さで経営者。なのに自慢気な様子はまるでない。 「儲けようとか、あまり考えてないんですよ。 一番心掛けているのは『勉強が苦手な子供』を減らすことです」 二コリと笑う桜志郎は、爽やかで眩しい。 (素敵な人と出会った) (こんなに苦しいときなのに、心が和む) 香帆の、嬉しそうな苦しそうな微妙な表情を見て、桜志郎が言葉を続けた。 「でも経営と企画以外に、もう一つ役割があるんですよ。 子供たちの相談役です。悩みや不安を抱えている子供は多いですから」 『相談』 香帆が、いま一番したいことだ。 颯真の浮気相談は、結婚を反対していた美緒にも両親にもできない。 このカフェにも「どうすればいいか?」を考えにきた。 こんなに優しい人に『相談』できる子供たちが羨ましい。 私には、誰もいない……。 「何か悩みがありそうですね」 「え?」 「悩みのある人は、子供も大人も同じ目をしてる」 さっき涙が溢れて、紙ナプキンで押さえた目だ。 腫れているのかもしれない。 でも、5歳も年下の独身男性に『夫の浮気相談』などできるわけがない。 しかも、出会ったばかりの人だ。 「いえ、悩みはないです」 「嘘ですね」 「……」 「誰かに話したら楽になりますよ」 そうかもしれない。 それに、何も知らない他人の方が、話し易い場合がある。 (この人は聞いてくれるかも) 優しく見つめる桜志郎に、香帆は悩みを話し始めた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加