復讐の相棒は、成仏できない幽霊夫です。

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地獄の3週間が過ぎて、香帆と桜志郎は駅前のカフェで再会した。 やつれた香帆に、桜志郎が告げた。 「御主人の浮気相手は、かなり(したた)かな女です。それに、  上手く立ち回ってるから、浮気の証拠もつかめません」 (え? 証拠がつかめない???)  香帆は内心『ドラマのような展開』を期待していた。 深夜ドラマでよく観るシーンだ。 しらばっくれる夫の前に〈浮気の証拠〉を次々と出す。 土下座して謝罪する夫に〈離婚届〉を突き付ける。 高額の〈慰謝料〉を請求して、爽快なハッピーエンド! そんな自分を想像して3週間も我慢したのに……、 証拠がない……。 「どうして? 絶対に浮気してるのに」 「本当に用心深い女です」 裁判や調停が〈浮気の証拠〉と認めるものは、いくつかある。 一番有力なのは、肉体関係が映っている写真や動画だ。 浮気が明白な音声録音も、大きな証拠になる。 浮気内容が書かれた日記、手帳、SNS、ラブホテルの領収書、 GPSの移動記録、友人や知人の証言も〈浮気の証拠〉になる場合が多い。 桜志郎は、残念そうに言った。 「そういうモノが、まったく無いそうです」 「一つも無いんですか?」 「はい。それに浮気の証拠は、1回とか1個ではダメなんです」 証拠は〈複数〉集めなければ、浮気を継続している証明にならない。 1回だけ、一つだけ、では裁判で負ける可能性がある。 逆に〈複数でも証拠にならない〉ものがある。 『相手の家に行った』も『一緒に道を歩いた』も『車の助手席に座った』も 浮気の証拠にならない。 「そういうことを、よく知っている女のようです。ですから、  御主人のスマホにも、履歴や記録や写真は無いと思います」 女が、証拠を削除するように指示しているはずだ。 妻帯者と不倫する女は、慰謝料を請求されないように悪賢い。 その典型のような女と颯真は浮気している。 こんな女との関係は切れないだろう。 証拠がつかめると思って3週間も耐えたが……、 (もう嫌だ。我慢できない) (これ以上は、我慢できない) 今朝も颯真は楽しそうに出勤した。浮気相手に会うつもりだ。 なのに! 私は! 私は!! 「この地獄が一生続くの!?」
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