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「犯人はこの中にいるッ!」
花見沢璃央は勢いよくそう告げて狭い部屋を見回した。私の他にいた夫婦はゴクリと喉をならす。私は思わず左右を見回し、こんな胡散臭い行動をしたんじゃ逆に犯人と思われないかといつも気が気じゃなくなる。
ここは高天山脈にある小さなコテージ集落、いわゆる別荘地で、何の因果か私はここに居合わせてしまった。何の因果かは実はわかっている。璃央がいるからだ。
「ちょっと君、変なことをいわないでくれよ。まるで推理漫画みたいじゃないか」
そう言うのは隣のコテージに泊まっているおじさんだ。当然だろう。
私と璃央は大学生且つ幼馴染で、たまたま私がこのコテージの無料宿泊チケットを商店街の福引で当てたから二人で泊まりに来た。今はクリスマスイブだった。なんていうか長年の煮えきらない関係を今晩こそ解消しようと考えてみた。それにどうせまた、殺人事件が起こるんだろうとも思っていた。
何故だかわからないが璃央と一緒にいるとやたらめったら殺人事件が起こる。これはもう、璃央が呪われているからとしか思えない。そのあまりの頻度に璃央の周りから人は減っていき、いや、物理的にもちょっと減ったけれど人間関係的に減ったってのが大半で、ともかく超常現象じみているけれど璃央の周りでは人が死ぬ。
警察も事件の度に璃央を疑い、そして当然ながら璃央が犯人ではないことはそのアリバイなんかから明らかになる。いっそうのこと璃央が犯人であれば話はわかりやすいのに、残念ながらこの人一倍斜め上の正義感が発達した男はさっきのような頓狂なことを口走って捜査を撹乱してついたあだ名が迷探偵。
そうして私は思い出した。
こんな場面が初めてじゃないことを。このおじさんに似た人はあのときも隣のコテージに泊まっていて、いや、このコテージに来たときから見たことがある予感がしてた。それがこのおじさんを見て、今の状況を改めて考えて、12年前の雪の日と同じような経過を辿っているということが頭の中で篩をかけるようにたくさんの記憶の中からくっきりと浮かび上がってきた。
あれは確か私たちが小学生のときのことだ。私たち四人家族はこのコテージに来て、あのときも連続殺人事件が起こった。嗚呼!
そもそもの今回の事件について振り返ってみる。
3時間ほど前に女の悲鳴が聞こえたんだ。バンと扉を開けて外に飛び出した璃央を追って私も雪の中に飛び出した。こういう時、璃央の側から離れるのは危険だ。璃央のフォーカスから外れると死亡率が一気に跳ね上がる。それを経験則上、近くにいる私はよく知っている。
雪に紛れそうな璃央の影に必死で食らいつき、追いついた時にはありえない姿で女が死んでいた。室内着のような薄着で空中に浮くように凍りついていた。そして次に悲鳴をあげたのがこの隣のコテージのおじさんなわけだ。私は驚いて三歩ほど後ずさり、雪だるまにぶつかってそれをバラバラに崩してしまった。
私が違和感を覚えて、これが過去と同じ経過を辿っていると気がついたのはその時だ。12年前も同じように死体が凍っていて、私は雪だるまを崩した。
そこからの展開はあっという間だった。悲鳴が上がるたびに死体が見つかり、都合死体が4体になったときにおじさんが発音した。バラバラになっているから襲われるのではと。結構な高確率で聞く言葉に少しだけ辟易した。
そんなわけで、このあたりで一番大きなコテージのリビングに生き残っていた6人が集まり、そのうちの2人が隣のキッチンに食べ物を取りに行くと言って戻ってこなかったからみんなで見に行ったら2人とも死んでいた。
よく考えたらたしかに推理漫画じみたスピード展開だけど、それはいつものことなので細かいことを考えたら負けだ。
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