我輩は悪の首領

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我輩は悪の首領

 悪の秘密結社『ギルディア』の黒幕(フィクサー)ベガは黒塗りのベンツの後部座席に乗っていた。 『そこいらのスーパーに寄ってくれ。ポチ』  首領は運転手している側近の星優真に命じた。 「いえいえ、閣下。お言葉ですが、ポチじゃありませんよ。星ですから。星優真です!」  イケメンの側近が応えた。彼は悪の黒幕(フィクサー)の側近として公私ともに(つか)えていた。 『フフッ、我輩がトイレットペーパーを買うなど信じられんなァ』  悪の首領ベガは流れていく街並みを眺めながら自虐的につぶやいた。すでに街は夕闇に閉ざされ、色とりどりのネオンサインが輝いていた。 「そうですね。ハニーは二枚重ねのダブルじゃないと怒りますから」 『ああァ、そうだな。ン、ハニー?』  一瞬、首領は聞き流したが側近の星が後妻のハニーを呼び捨てにしたのが気になった。 「あ、いえッ、なんでもありません。奥方様ですね」  すぐに星は訂正した。 『ううゥむ、悪の首領ともあろう者がトイレットペーパーの買い出しを頼まれるとは』  首領はいかにも情けなさそうだ。 「いえいえ…、結婚生活は奥様に従っていた方が丸く収まると聞きますので」 『ふぅむ、この事は決して他の部下たちには口外するなよ。ポチ!』 「ハイ、お言葉ですが閣下。(ホシ)優真です。ちゃんと覚えてください」  側近の星優真は苦笑いを浮かべた。  彼こそ悪の秘密結社『ギルディア』の首領ベガの後妻、ハニーの元カレであった。  しかしこの時はまだ悪のフィクサーベガも知る(よし)もなかった。  街は、なにもなかったかのように平和だった。  おしまい
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