都合のいい男

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 *  「はぁ……。完璧だと思ったのになぁ。ものすごく酷評されてる」  私はパソコンの画面を見つめ、届いたメールに溜息をつく。  コンテスト応募小説についてーー 【書評】  彼というキャラクターは、物語を書くうえで、あまりにも作者にとって都合のいい人物であり、決められた結末へ向かう為の、ただの小道具となっている点が非常に残念です。  まずは、彼というキャラを冷静に見つめ直すことから始めるのが良いでしょう。  それは応募者全員、落選作にまで書評を送ってくれるミステリー小説のコンテストだった。  私が考えた完璧なは、強い霊力を持つ陰陽師であり、サイコキネシスであり、テレパスであり、なんだかよく分からないけれど時空に歪みを発生させ、「あ。やべー」って事態に陥った際に瞬間的に人の記憶を書き換える力を持っている。完全犯罪の一つや二つ、そんなもの、とるに足らない男だ。 「あなたを手放すのは惜しいけれど……。サヨウナラ。あなたは私にとって、都合の良過ぎる男だったみたい」  こうして私は、小説の設定資料の中から完璧な彼を削除した。  そして、なんの変哲もない普通の男性を犯人に設定し直した私は、進まない原稿にイライラする。 「普通の男で、どうやったら完全犯罪なんかできるのよ!」  そのトリックを考えるのがミステリーの醍醐味なのだと、どこからかそんな声が聞こえたような気がしたけれど。 「そんな事、私に考えられる訳ないじゃない! ミステリー小説を読んだことも無いんだから。でも、響きが格好いいのよね。ミステリー作家って。……あ! そうだ」  私は作家の夢を諦め、ミステリー作家の嫁になるためマッチングアプリに登録して、都合のいい(彼氏)を探す事から始めたのだった。 (了)
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